岡本和宜さん 『ベスト・エッセイ』編集岡本和宜さん 『ベスト・エッセイ』編集
昨年没後40年を迎えた和歌山市出身の作家、有吉佐和子の人気が再燃している。同市の有吉研究家、岡本和宜さん(写真)が編集した『ベスト・エッセイ』が1月14日、ちくま文庫から発売。また、発表から50年近く経た『青い壺(つぼ)』は2011年に文春文庫が復刊してからじわじわ人気を集め、累計60万部を突破。しかも、直近1年で10万部以上売り上げたほどだ。
『ベスト・エッセイ』作家の日常描く
有吉作品では、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『複合汚染』など、家族関係や社会問題をテーマにした単行本が次々ベストセラーとなった反面、エッセイは単行本化されることが少なかった。
岡本さんが編集した『有吉佐和子ベスト・エッセイ』は、「幸せな仕事」「いとおしい時間」「本を語る」「世界を見る目」の4章構成で、作家の日常や小説の舞台となった紀ノ川の訪問記、国内外の取材先での思い出など、54編を紹介した。また、ルポルタージュも2編収録している。
岡本さんは「有吉作品は社会派のイメージが強いと思いますが、エッセイには家族や仕事のことなど、穏やかで素直な文章があります。これまで抱いていたのとは少し違った印象が生まれるかもしれません」とほほ笑んでいる。
384㌻、990円。宮脇書店和歌山店、ツタヤウェイガーデンパーク店ほか、主要書店で販売。
また、岡本さんは1月、豆本『藤戸の浦』を出版した。伝統舞踊をテーマにした作品で、昨年8月の『輪島の漆器』に続く第2弾。有吉佐和子記念館で販売中。
『青い壺』登場人物に共感
一方、1977年に書かれた小説『青い壺』が累計60万部を超えた。同書は98年に絶版となったが、2011年に復刊され、ゆっくりと売れ続け、23年に小説家の原田ひ香さんが本の帯に推薦文を寄せたことで人気に火が付いた。
同作は、ある陶芸家が作った壺が、売られ、贈られ、盗まれ、ついには海を渡り、十数年経った後、陶芸家と再会を果たす内容。13話のオムニバスで、壺を手にした人たちの、生活や人間模様を描き出した。
人気について岡本さんは「登場人物に共感できるキャラクターがいるのが親しみやすさの一因」と分析。「物事を冷静に見て、ありのままを書いていることに『言いたくても言えなかったことを、代弁してくれている』と感じる人がいるのでしょう」とみる。また、同市伝法橋南ノ丁にある有吉佐和子記念館の恩田雅和館長は「13話はそれぞれ独立しているが、まとめて読むと一本の長編になり、読み終えた時の満足度が高い。介護問題や相続争いなど、今取り上げても古くないことをテーマにしたところが、時代を超えてもウケているのかもしれません」と読み解いている。
345㌻。781円。
(ニュース和歌山/2025年1月25日更新)