音楽プロデューサーの小室哲哉さんが、女性問題報道を受けての記者会見で引退を発表しました。不倫どうこうに関心はありませんが、2011年にくも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害を負った妻、KEIKOさんの介護に疲れた小室さんがSOSを出しているようで、その点が気になりました。

 「見えない障害」と言われる高次脳機能障害は、事故や病気で脳が損傷して起こります。記憶障害、注意力低下、失語など、人により症状は様々です。

 海南市生まれのディジュリドゥ奏者、GOMAさんも09年、高速道路で追突され、高次脳機能障害が残りました。記憶の一部を失い、新しいことを覚えにくくなったほか、怒りを抑えられなくなったそうです。

 GOMAさんが2年前に出した著書『失った記憶 ひかりはじめた僕の世界』(中央法規)は事故後に始めた日記を収録する形で構成されています。所々にはさまれている妻、純恵さんの日記が心に刺さります。

 怒りを制御できず、罵声を浴びせ続ける夫に対し、「『いい加減にして、子供の前で。もう人間失格や』と言ってしまった。今度はその言葉に引っかかって、俺は生きている資格がないと、一日中落ち込んでいた」「『私だって休みたい』と怒ったら、逆ギレ。今日はリモコンが壊れた。いったいどうなっているの? 私は休めないの?」。最も近くで支える人には、介護経験のない私には想像できないつらさ、孤独感があるのでしょう。

 小室さんは会見の終盤、締めの言葉を述べる司会を遮り、「高齢化社会に向けてだったりとか、介護みたいなことの大変さだったりとか、社会のこの時代のストレスだったりですとか、少しずつですけどこの10年で触れてきたのかなと思っているので、こういったことを発信することで、何かいい方向に向いてくれたらいいなと心から思っています」と語りました。

 そして最後に見せた、どこかすっきりしたような笑顔。勝手な想像ですが、目の前にいる記者やカメラマン、さらにその向こうにいる視聴者に心の内を打ち明けることで、重いものが一つ取れたのかもしれません。話すだけで軽くなる。今号で触れた介護者向けカフェ「ぼちぼちIKOKA」のような場所が増えることが、小室さんの願う〝いい方向〟へ進むために必要なのだと感じます。 (西山)

(ニュース和歌山/2018年1月27日更新)