「がんかも知れない」。母親から電話を受けたのは2年前の7月でした。後日、精密検査を受けたところ、末期のすい臓がんが見つかり、検査入院の流れでそのまま治療に入りました。

 がんが進行していたため手術は難しく、放射線と抗がん剤による治療が始まりました。いずれも身体への負担が大きく、食事はのどを通らなくなり、みるみるやせていきます。それでも母は、「がん、小さくなったかな」と希望を抱き、治療に耐えました。その間、先進医療について調べました。温熱療法、陽子線療法、免疫療法…。どれが効くのか、限られた時間で調べきれず、判断できませんでした。

 放射線治療を受けられる回数が終わった約1ヵ月後、再び検査したところ、がんは小さくなるどころか大きくなっていました。苦しみに耐えてきた母に残酷な事実を伝えられず、緩和ケアを受けるため転院することに。そして、がん発見から2ヵ月半後の10月に旅立ちました。

 治療法をめぐっては、医師に相談しましたが、「手術、放射線、抗がん剤の標準療法が第一で、それ以外の治療を受けるのであれば止めはしないが、効果があるとは言い切れない」とのこと。治療を継続するのも、先進医療を選ぶのも、患者本人と家族次第だ、ということです。

 ひとまず、抗がん剤を継続しつつも、「先進医療を受けては」「いや、標準療法が一番確かだ」と家族は混乱し、瞬く間に時間が過ぎていきました。素人の私たちは知識も経験もなく、いっそ、医師に「これでいきます」と明言してもらった方が、他の選択肢をあきらめ、母と向き合えたはずです。ただ、後から「判断は間違っていた」ととがめられるリスクから、断言できない医師の立場も分かります。

 どうすれば良かったのでしょうか。相談窓口や支援員といったサポート体制が整備されていますが、そこへ相談したところで、医師と同じく決め手には欠けます。願わくば一度立ち止まり、家族が抱えている不安を取り除くために医師とじっくり話し合う体制と時間があれば、ありがたかったと思います。

 がんは今、2人に1人が経験します。いつ、だれが同じ状況に陥るか分かりません。医療の進歩と合わせて、医師が患者やその家族との信頼関係を築くための支援体制を充実させることが、家族との時間をかみしめ、自分らしい最期を迎えるために大切なのだと思います。 (林)

(ニュース和歌山/2018年10月27日更新)