医を多面的に考える

 第二次世界大戦中にナチス・ドイツが強制収容所の囚人を対象に行った人体実験。その罪を裁いたニュルンベルグ裁判は、世界的に「医の倫理」が考えられるようになったきっかけでした。この裁判後、人を対象とした研究については、被験者の自発的な同意、権利や福祉の優先を求める「ニュルンベルグ綱領」(1947年)が発表されました。

 現在、我が国における医療や臨床医学研究は、国が定めた法令・指針や医系学会の作った指針のもとで倫理的に適正な形で行われています。特に、医薬品や医療機器の開発と、人が関わる臨床研究については、大学など研究機関の治験審査委員会や倫理審査委員会などにより、「医療倫理の4原則」(自立尊重、無危害、善行、正義・公正)を共通の基準として厳正な審査が行われ、その承認後に実施されています。

 しかし最近、「高血圧治療薬の開発における研究不正」や「製薬会社による医薬品普及団体への助成金供与」など、私たちの周りでは数々の医療問題が発覚しており、「医の倫理」が関わる不正事件は後を絶ちません。

 今年4月より、新たに「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省)が施行されます。この指針のもとでは、研究責任者の明確化や、インフォームド・コンセント、研究試料・情報の保管、利益相反の管理、モニタリング・監査などに関する規程が見直され、倫理審査の厳格化を通じて、医療不正問題の抑制が期待されています。

 近年、終末期医療、脳死、臓器移植、iPS細胞、再生医療など、医学の進歩に伴い、「医の倫理」に関わる環境はより複雑になってきました。また、それに対する考え方も、個人の価値観や社会のあり方の変化に伴い時代とともに変わりつつあります。  今後の医学、医療の発展にとって、「医の倫理」の問題をどう捉え解決していくのか、広く皆で考えていくことが必要ではないでしょうか。

 和歌山大学とニュース和歌山は原則毎月第1土曜に和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催しています。次回は4月4日(土)午後2時、テーマは「和歌山の災害の歴史〜災害から何を学ぶか」です。

 (ニュース和歌山2015年3月28日号より)