日本文化の華、浮世絵。欧米での高い評価もあいまって、今や日本の美術、文化の代表格のような存在です。けれども意外に知られていないのは、浮世絵には筆で描かれた一枚ものの「肉筆画(肉筆浮世絵)」と木版技法で制作された「版画(浮世絵版画)」があり、その半分以上は木版画だったということです。そして、版画であるだけに「本物」は複数点あり、それゆえの機能を持っていました。大量複製、大量頒布が可能なものだけに、浮世絵版画は17世紀半ばの創始以来、媒体(メディア)であったのです。

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 近世日本のメディアと言えば、よく知られた瓦版がありますが、浮世絵版画は瓦版がもたらすニュースをイメージ(画像)で補足する役目を果たしていました。またいわゆる報道以外の情報、たとえば現代の雑誌やテレビがもたらす情報の類も浮世絵が伝えるジャンルでした。たとえば喜多川歌麿が描く美人画や東洲斎写楽の役者絵は雑誌のグラビアのような役目を果たしていましたし、歌川広重や葛飾北斎が描き出した名所絵(風景画)は観光ガイドブック、風刺画や戯画は新聞や雑誌に掲載される風刺漫画に相当すると言えましょう。

 そうした役目を果たした浮世絵版画は、黒船来航以降の幕末明治の諸事件も、当然のように描き出しています。黒船や異人、尊王攘夷(じょうい)の世相、戊辰戦争、文明開化を象徴する文物、そして明治天皇まで。しかし、どうも描く際の取材はあまり行われた様子はなく、何かしら珍妙な図柄です(右図)。さらに明治5年(1872)に創刊された新メディア・日刊新聞各紙とコラボレーションし、錦絵新聞なる奇妙な新媒体まで作り出します。

 浮世絵は「浮世=現世」の絵。幕末明治の浮世絵が描き出したのは、大転換期だった当時の浮世でした。そしてそれゆえに、この時代の浮世絵は、本来持っていたメディアの要素を最も強く包含した絵画となったのです。

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写真=副将「アハタムス」像

(ニュース和歌山2016年2月27日号掲載)