ぼくは、イノシシ。名前はくりっていうんだ。ぼくは、他のイノシシとは少しちがって、毛の色がうすいくり色だから、名前がくりになったんだって。

 でも、それが原因でかげ口を言われたりする。みんなひどいよね。ぼく、何も悪い事してないのに。お母さんに相談したら、学校を少しのあいだ休ませてくれたんだ。ぼくのお母さんは、お父さんと相談してしんけんに考えてくれた。お母さんとお父さんは、やさしいから大好きなんだ。

 ぼくは、学校を休んでいるあいだ、外で遊んだりして楽しくすごした。虫さんをおいかけたり、ねころんだりしていたら、おくの方からガサゴソ聞こえた。

 「何だろう?」。その音が近づいてきて、ぼくはこわくなった。すると、「うわぁ! イノシシだ! 小さくてかわいいな」。見た事がない生き物が、ぼくに向かって話した。なんだ!? こいつは…。こんなの見た事ない…。

 「よいしょ」。ぼくがおどろいていると、こいつがぼくをだっこした。ぼくはあばれたが、おろしてくれない。「じたばたしない!」。その声におどろいて、ぼくは静かにしてしまった。だっこされている安心感により、ぼくはいつのまにかねてしまった。

 目をさますと、ぼくは見知らぬ部屋にいた。「ここどこ? お母さんは?」。ぼくはパニックになり部屋の物をたくさんこわしてしまった。「キャァァ! 何よ! このイノシシは!?」。だ、だれ?! この大きな生物は?! 「あ! だめでしょ! あばれないの!」。さっきの生物だ。ぼくは少しけいかいしてにげてしまった。

 次は、森と少しにているところにきた。そこからにげようとしたけど、大きなかべがあって登れない。「はやく! はやく!」。すると、さっきの生物が来た。

「あ、いた! こっちにおいで」。手まねきしているけど、ぼくは行かない。

 そういえば、前にお母さんが「人間に近づいちゃいけないわよ」って言ってた。聞いていた人間の特ちょうと、この不思議な生物は似ているし…これは人間というものなのだろうか…。考えていると、ぼくはまただっこされていた。

 「お母さんみたいに、あったかい…」。人間は、お母さんみたいにすごくあったかい。だから、だっこされるの、少し好きかもしれない…。ぼくは、家の中にはいって、ごろんとねころんだ。すると、人間が近づいてきた。

 「私は、ユリっていうんだよ! よろしくね!」「ユリ、ちょっときなさい」。ユリが、大きな人間によばれてどこかへ行った。どこに行ったんだろう。心なしか、家がさっきより静かな気がする。すると…、「いいじゃん! かわいいじゃん!」「イノシシはきけんなの!」「いいじゃん!」。何か話をしている。何言ってるんだろう…。大きい声で、ちょっとこわいな。

 「え~…」「すててきなさい」。ちょっと声が小さくなった。すると、ユリがしょぼんとして帰ってきた。「明日帰ろっか…」。え? お母さんに会えるのかな!? お母さん心配してるかな…。その日、ぼくはユリのふとんっていうやつでねた。

 「ふぁ~…。あれ、ぼくの友達の声がする」。外に出ると、お父さん、お母さん、そしてぼくの友達がいた。「くりー!」「くりくんー!」「くりっち~!」。ぼくの事を助けに来たのかな!!

 「お母さぁぁぁん!」「くり! 大丈夫!?」「うん!」「そう、よかったわ…」「さぁ、はやく帰りましょう」「うん!」

 森に帰ったら、ぼくの事をかげ口言ってた子がいた。「あ、あの…くりくん! この前、ごめん!」「おれも、ごめんな…」「え…?」「くりがおらなさみしいんだ!」「そっか…ありがと!」

 それから、みんなとは仲良くできてるんだ。でも、まただっこしてほしいな…。あの大きい人間に見つからないように、ユリに会いに行こうかな…。ぼく、ユリの事大好き!

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 児童文学作家、嘉成晴香審査員…「未知」なものを知っていく感情の動きや揺れが、よく書けています。登場人物が多いにもかかわらず、無理なく内面が描写されていて、様々な感情が飛び交っているのがいいですね。温かい物語を、ありがとうございます。

(ニュース和歌山/2019年1月26日更新)