子育てをする女性が働きやすいように、保育施設を設ける企業が増えている。少子高齢化で労働人口が減る中、女性を働き手として期待する国の方針に沿ったもので、開設への助成が始まった2016年度以降、和歌山県内で約20社が設けている。和歌山労働局雇用環境・均等室の佐々木晃子室長は「能力が高くても保育時間の制約で働けない人もいた。女性ができるだけ早く職場に復帰し、キャリアを磨ける環境が整いつつある」と歓迎する。

国の助成で増える企業内保育〜女性の復職と人材確保へ

 朝、マリーナシティホテルに勤務する矢髙圭織さんは1歳の長女、愛織ちゃんと〝出勤〟する。隣接するマリーナ保育園に娘を送り届けると職場へ。仕事中、園の遊び場として使っているホテルの庭で元気に過ごす娘を見かけたり、昼休みに授乳のため園を訪れたり。互いの距離は近い。「出産後、しばらく働けないと思っていましたが、ここなら働けると思い、求人を見て即応募しました。何かあってもすぐ駆けつけられて安心だし、仕事の合間に子どもの成長を見られるのがうれしい」と圭織さん。

 昨年9月に開園した同園は0~2歳対象で、同社スタッフの子ども3人と地域からの6人が通う。4月には産休明けのスタッフも利用して職場復帰を予定する。同ホテル人事総務部の田端諭さんは「結婚や出産で毎年2、3人辞めていました。育休制度を充実させていますが、やはりブランクが長くなると戻る人は少ない。即戦力となる人材の定着と、新規採用につながる」と手応えを語る。

 これまで、保育所は行政からの補助がある認可施設と、補助がない無認可施設があった。国は16年、待機児童解消と女性の職場復帰を促すため、企業内に保育施設を設ける企業主導型保育事業を始めた。子どもの人数に対する職員数や資格は認可保育所とほぼ同等の基準だが、園庭がない場合は近くの公園を、調理設備がない場合は連携施設からの持ち込みも可能とするなど設置基準を緩めつつ、認可施設並みの助成を行う。短時間利用や休日保育と働き方に応じたサービスを提供し、複数企業による共同設置もできる。

 企業主導型保育事業の施設には、設置企業の従業員以外も利用できる地域枠がある。17年に開園した同市築港の楽ナーサリースクールは定員12人のうち、地域枠が7人。近くの職場で働き、4歳の朱莉ちゃんを預ける松谷敬さんは「車で5分もあれば迎えに行けるので便利。同じ職場で働く妻も復職を早く実現でき、家計も助かる」と喜ぶ。

 運営する楽クリニックの藤田定則院長は「早くから幼児教育に取り組んできた和歌山キンダースクールの教育プログラムを取り入れるなど、独自色を持たせています。人材確保に加え、地域の保育環境改善にもなる。今後、同様の施設が増えれば、保育所が選ばれる時代が来る」と話す。

 全国の有効求人倍率は1・63倍、県内は1・56倍と人手不足が続く。中でも和歌山県内の女性有業率は25~29歳で79・5%だが、30~34歳は71・6%とやや下がる。和歌山労働局の佐々木室長は「自宅、職場、保育所と3ヵ所を回る負担感は大きく、再就職をためらう一因になる。こうした取り組みは、会社が労働者に選ばれる理由になってくる」と見ている。

写真=職場内の保育施設を利用する矢髙さん親子(右)

(ニュース和歌山/2019年2月23日更新)