今も学ぶ80歳 北川順子さん 上映会で自作の詩朗読

 夜間中学の生徒たちを追ったドキュメンタリー映画『こんばんはⅡ』が6月13日㊐午後0時半、JR和歌山駅前のわかちか広場で上映される。当日は、和歌山市岩橋の岩橋夜間学校で学ぶ唯一の生徒、北川順子さん(80、写真左)が思いを込めた詩を朗読する。

 戦後の混乱期、経済的な事情で義務教育の機会を奪われた人たちが通う夜間中学。近年は不登校で形式的に卒業した人や、日本で働く外国人の家族が学ぶ場へと役割は広がっている。

 北川さんは和歌山市生まれ。小学4年の時、弟と妹の世話をするため通学をあきらめ、進学した中学も通わなかった。もっと学びたかったが、近所に同じような境遇の同年代は多かった。16歳で大阪へ働きに出た。できたのは低賃金だった炊事場の仕事。割りの良い仕事を求め、転々とした。

 20年前に故郷へ戻り、岩橋夜間学校と、読み書きを身に付ける岩橋識字学級の存在を知った。以来、もう一度学び直したいと月2回通う。「勉強している時が一番楽しい。先生に巡り会えて人生が変わった。もう少し生きて、できる限り続けたい」と声を弾ませる。

 同校は、満州から引き揚げる際に親を亡くし、学校へ通えなかった故・能勢博之さんのためにと、小学校教諭の吉本拓司さん(同右)が2000年に立ち上げた自主夜間中学。「お金の計算もできなかった能勢さんが生きるには、識字学級だけでなく、算数も社会も理科も必要。それに『学校は楽しい場所』だと知ってほしかった」と話す。

 生徒に寄り添い、勉強のほか、折り紙や水彩画の作品づくり、遠足、全国の夜間中学との交流など、学校生活に触れられるよう工夫してきた。しかし、公立でないため卒業証書は出ない。吉本さんと北川さんは公立夜間中学の設立を目指し、授業の公開や講演を行い、認知度向上を図ってきた。「学び直したいと思った時に、学べる場があるのは大切」と吉本さん。

 義務教育機会確保法が16年に成立し、公立夜間中学の設立を望む声が高まる中、19年に映画『こんばんはⅡ』が公開された。上映運動が全国で展開され、和歌山でも昨年、実行委が発足した。公立校の設置へ機運を高めるのが狙いだ。山口裕市実行委員長は「公立は学習指導要領に基づいた授業になるため、先生の力が必要になる。映画や北川さんの発表を通じ、多くの人に知ってもらえたら」と願う。

 上映会当日は、夜間中学校パネル写真展示や高校生バンドの演奏もある。無料。定員50人。申し込みは10日までに実行委(eguchi@shinai-u.ac.jp、073・488・6228)。

(ニュース和歌山/2021年6月5日更新)