2021年も新型コロナウイルス感染症が私たちの暮らしを左右しました。その中でも「第45回全国高等学校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)」が開催され、全国の高校生が集まり、日ごろの芸術文化活動を発表しました。新型コロナの影響下にありながら、和歌山県では新しい時代の形にそった「学び」が進められています。和歌山の教育が進む道筋について、宮﨑泉県教育長に小川一夫ニュース和歌山代表取締役社長が聞きました。

写真=「来年は教育のさらなる充実に取り組みたい」と語る宮﨑教育長

 

感染症対策十分に 生活のリズム 登校から

学校での感染症対策を徹底

小川社長(以下、小川) 未だに収束が見通せない新型コロナウイルスの感染拡大は、学校教育にも大きな影響を与えました。今年一年も、対応に神経を使われたのではないでしょうか。

宮﨑教育長(以下、宮﨑) もちろん、子どもたちの健康や安全が最優先ですが、新型コロナの影響をなるべく小さくして、のびのびと学校生活が送れるようにしてあげたいと考えています。学校の感染症対策を十分行った上で、子どもたちが学校へ登校することを通して、日々の生活のリズムを確立してもらいたいと思っています。

 

活躍と成長 わかやま総文

「紀の国わかやま総文2021」総合開会式では、和歌山の高校生が華やかな開催地発表を披露

小川 新型コロナ第5波の影響も気になる中、「紀の国わかやま総文2021」が開かれました。ニュース和歌山でも『わかやま総文青春通信』として、紙面で子どもたちの横顔を紹介させて頂きました。大会をご覧になっての感想、または成果をどのように感じられていますか。

宮﨑 まず、ご協力いただいた全ての方々に感謝申し上げます。全国の高校生がレベルの高いものを和歌山に持ち寄ってくれたことで、本県の子どもたちは、大いに刺激を受けたことと思います。和歌山県の子どもたちが、この大会で得たものを、自分の将来に生かしてくれることを願っています。

 また、やや手前味噌ですが、2年前から企画運営の中核を担った生徒企画委員会の諸君の成長には目を見張るものがありました。与えられた大きな舞台で、それにふさわしい活躍と成長を見せてくれたと思っています。

 

小さなサインを見逃さず支援

小川 一夫 ニュース和歌山社長

小川 先日も公立小中高校生の不登校児童生徒数が過去10年で最多になったとの調査結果が文科省から発表され、コロナ禍の影響との見方もあります。不登校やいじめなど、学校生活がうまく送れていない児童生徒についての受け止めや支援の在り方について、どのようにお考えですか。

宮﨑 いじめや不登校に悩む子どもさんや保護者の方の心中を察すると本当に胸が痛みます。不登校の原因はそれぞれですが、5日間欠席したらすぐ対応するなど、しっかりとマニュアルにのっとって、児童生徒やその保護者の方に寄り添うよう、先生方に強くお願いしています。いじめの認知件数が多いのは、些細なことも見逃さない姿勢の表れであり、事が起こった時に児童生徒やその家族、学校や先生をバックアップできる体制を整えているところです。

 

県立高校 充実発展へ 農業教育等を推進

小川 県立高校再編整備の論点整理を2月に発表されました。現在ある県立高校の特色を明らかにし可能な限り存続させながら、自宅から通学可能なところに多様性と活力ある高校や、質の高い教育を提供する高校を整備する方向を打ち出されました。当初29校を20校に再編する「きのくに教育審議会」の答申から検討を経て、高校再編への現実的なステップを示したものと思われます。また、農業教育の推進など、高校教育の充実に向けた取り組みもすでに始まっているとお聞きしています。今後はどういった形で進んでいくのでしょうか?

JR和歌山駅前で、農業系高校の生徒が自校の産品を定期的に販売

宮﨑 答申の受け止めにおいて、母校や地域の高校がすぐに無くなってしまうと不安を感じた方がいたことは申し訳ないことですが、今ある高校は可能な限り存続充実させたいというのが私の思いです。生徒数減が避けられない中で高校の継続が困難となり、どうしようもなくなって学校を閉じるのは、やはり無責任だと考えます。その上で、学校の数を減らすだけの再編整備ではなく、施設や教育内容を充実させたよりよい高校につくりかえていく営みを、機を逃さずに実施していきたいと思っています。

 今ある高校を充実発展させる点で、例えば、和歌山は梅・桃・柿・ミカンなど果樹栽培も盛んな地域で、これを生かさない手はありません。そこで、令和4年度の入試から、農業科の一部学科・コースにおいて、全国募集や一般選抜に先立つ農業科特別選抜を行い、明確な目的意識をもって農業を学ぶ人材を募集することにしています。また、農業系高校と県農林大学校を5年一貫教育で結ぶとともに県の各試験場とも連携し、6次産業化や大学編入にも対応できる人材を育てる「わかやま農業教育一貫プロジェクト」を始動させました。

 

高校生の就職 複数応募導入

小川 高校生の就職活動で、これまで「1人1社制」としていたものを今秋から「複数応募制」にしました。複数応募制を始めた県は数少なく、思い切った変更ですね。

宮﨑 経済団体や企業の方に格別のご理解をいただいて実現できました。和歌山県では就職生の約4割が高校卒業後3年以内に離職しています。「複数応募制」を導入することで、生徒と企業の相互のマッチングを図り、こうした課題を解決していきたいと考えます。実際、「希望する企業に自分を見てもらえて嬉しい」「就職したい企業について親や先生と率直に語り合うことができた」という生徒の声も聞こえてきています。

 

1人1台端末で広がる学び

分散登校の中、ICT環境を活用し、教室の授業を自宅で学習する生徒にも届ける

小川 また和歌山県では、小中学校に加え、高校でも全国に先駆けて1人1台端末を整備したとお聞きしています。端末の活用で、これまでと違った新たな学びが実現されると期待します。

宮﨑 今年度に入り、平常時においても、教員があらかじめ準備した解説動画を生徒が自宅で予習してから対面授業に臨むなど、ICT環境や1人1台端末を活用した活動が増えています。

 一方、今年8月に新型コロナの感染拡大が懸念されたときには、学びの空白が生じないよう、県立高校・中学校に登校する生徒を半分に減らし、自宅にいる生徒は教室で行われている授業にオンラインで参加する、いわゆるハイブリッド型の授業を実施しました。

 今回のコロナ禍によって、教員のICT活用能力も向上しました。今後は、授業への活用と並行して、教員の働き方改革にもつながるよう研究したいと思っています。

 

積み上げてきたことを再点検

小川 ありがとうございました。最後に来年に向けた抱負と展望をお願いいたします。

宮﨑 コロナの収束も不透明な中ですが、教員の資質向上、いじめ・不登校の減少、魅力ある高校教育づくりなど、これまで積み上げてきたことを再点検し、子どもたちと和歌山県のため、教育のさらなる充実に取り組んでいきたいと思っています。

※インタビューは感染症対策に十分配慮した上で行いました。

(ニュース和歌山/2021年12月25日更新)