年の瀬に訪れた私は、滝行を待つ行者の列の後ろに並んだ。氷点下に近い寒い日。行を終えた行者が、倒れ込むように滝から出てきた。一礼して岩窟に入る。6畳にも満たない閉鎖された空間。光が真上から降り注ぐ、まさに岩窟滝だ。

 この滝で平安〜鎌倉期の文覚上人が荒行した。那智の滝の下にあり、紀伊半島大水害で消滅した文覚の滝を思い出す。滝に打たれ失神しそうになった上人を不動明王の使いが天から舞い降り、引き揚げる場面は有名だ。

 文覚上人とかつらぎ町は縁が深く、この地で開削した約5㌔にもおよぶ用水路「文覚井」は、彼が熊野の帰りに創建したという宝来山神社の本殿裏を流れる。不動明王の使いは、この滝にも舞い降りたのだろうか。

(ニュース和歌山/2017年12月16日更新)

大上敬史さん作製「和歌山県の滝」で、県内の滝が紹介されています。