和歌山城内のもうひとつの石積みに、石段を見落とすことはできません。この石段を「雁木(がんぎ)」と言います。櫓や蔵に入るための小さな石段もありますが、塁上に上る石段で、向かい合う「合(相)坂(あいざか)」と横に長く続く雁木(坂)の2種類が、特に目を引きます。

 城内各所に見ることができる合坂は、向かい合う二方の限られた場所から上り下りしますが、東堀沿いの横に長く続く雁木(坂)は、どこからでも上り下りが出来るので便利です。しかし、万一、敵が侵入すれば、どこからでも下りて来られるので、石段は急で幅は狭く、下りる方が危険を伴う造りになっています。

 合坂は、石段の傾斜や幅の違うものを城内で見る事ができます。砂ノ丸には一段一段が高く、幅の狭い急峻な合坂があり、南ノ丸には低く緩やかな対照的な合坂が見られます。これらを比較すれば、構築する石の積み方と石質の違いで、時代差を知ることが出来て楽しく探せます。

 中でも岡口門北脇の雁木は、石積みが雑ですが、南脇の方は丁寧です。それよりも南堀(三年坂堀)に沿う南側の合坂はもっと丁寧です。石の加工技術の進歩が見られると言った方が適切かも知れません。他の雁木に見られない加工技術が施されているからです。太いL字状に加工した石を一段一段に組み込み、その上に細長い石を乗せています(写真)。このような技術がまだ確立されない豊臣期の構築と考えられる合坂も、岡口門内の西端(正面奥)にあります。緑泥片岩を自然のまま積んだ低い石垣に、緩やかな合坂が設けられています。

 和歌山城は、三期(豊臣期・浅野期・徳川期)の石積みの違いが、分かりやすいことで知られています。それを広い城内を歩かなくても、この岡口門周辺でそれぞれが見られ、しかも、もう一つの石積みである「雁木」にも、時代差を知るとともに、改修ごとの加工技術の向上が隠されていることは、大変興味深い場所と言えます。

写真=右手前にL字に加工された雁木が見えるが、左側には見られない

(ニュース和歌山/2018年3月17日更新)