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 有田みかんのスフレワッフルにかつらぎ町のいちごのパリパリタルト、紀の川市桃山町の桃ゼリー…。和歌山市中島の洋菓子店「ル・パティシエ ミキ」には、県産の果物があふれんばかりにトッピングされたスイーツが並ぶ。オーナーシェフの三鬼恵寿さん(53)に、和歌山の果物への思いと今後の夢を聞いた。(文中敬称略)

農家との出会い

――色とりどりの県産果物を使ったスイーツが並んでいますね。

三鬼 和歌山の果物を使うのが一番のこだわりです。農家さんと直接契約しています。有田みかんの果汁と果肉にホワイトチョコレートの生地を合わせたケーキ「みかんの紀婦人」はお客様から人気の商品です。

――和歌山のフルーツにこだわりはじめたのは。

三鬼 10年前、有田みかん農家の的場秀行さんと出会ったのがきっかけです。農業の生き残りをかけて新種のマンゴーを育てるために、代々受け継いだみかんの木を一本一本塩で清めながら泣く泣く引き抜いた話を聞き、農家さんの苦労と作物への愛に胸を打たれたからです。

――そこから県内各地の農家と交流が広がったのですか。

三鬼 農園へ出向くうちに、味は良いのに規格外で市場に出せない果物がたくさんある悩みを知りました。愛情持って育てた果物を菓子にしてよみがえらせたいと使命感がわいてきました。

夢は航海士?

――パティシエは子どもの頃からの夢だった?

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三鬼 育ちは三重県の漁師町で、実は豪華客船の航海士になりたくて水産高校へ通っていました。でも航海士への門は狭く、それならコックになれば船に乗れるんじゃないかと辻調理師専門学校で学んで、大阪のホテルへ就職しました。小麦粉や卵、砂糖が作り手次第で色んな形の菓子に化けるおもしろさにひかれていき、パティシエの道へ進みました。

――和歌山で独立したのは。

三鬼 フルーツの種類が多く生産量も圧倒的。ケーキ屋にとってプラスになる素材が多い。人が穏やかで、海と山があり、自然に囲まれた環境が気に入ったからです。

県産品で手土産

――現在の目標は。

三鬼 県産品を材料に日持ちする菓子を作って、県外へ和歌山の良さをアピールすることです。和歌山には有名な菓子の土産品はありますが、地元の素材を使ったものは少ない。新しいお土産を開発して、観光客や帰郷した人が県外へ持って行く定番になって、和歌山の素材が全国へ広がっていけば最高ですね。

――どんな土産品を。

三鬼 南高梅のパウダーを挟んだパイや備長炭のチョコレートなどアイデアはたくさん。焼き菓子に練り込めるみかんを煮詰めたコンフィも開発しています。みかん風味の土産はあるけど、どこにでもあるみかんの味でなく、和歌山で育ったほんまもんのみかんの味を出したい。このコンフィ作りだけで3年かけています。和歌山の味や香りに妥協はしたくないですね。

――夢は。

三鬼 これは本当に夢のまた夢なんですけれど、いつか農園の中で店を開きたいです。お客様が目の前の畑にある好きな果物を取って、お客様の好きなようにその場でスイーツに仕上げる。和歌山の良さは都会にはない自然なので、それを最大限に生かした店をつくってみたいです。

写真下=かつらぎ街のいちごや有田みかんを使ったケーキ

三鬼恵寿(けいじゅ)…1960年、三重県生まれ。辻調理師専門学校卒業後、大阪と神戸のホテルで14年勤務。マリーナシティ開業時に来和し、ロイヤルパインズホテルで製菓長を2001年まで務める。03年にル・パティシエ ミキをオープン。

データ
ル・パティシエ ミキ…和歌山市中島551—4—101。電話(073・471・7977)。午前10時〜午後8時。水曜、第3火曜定休。

(ニュース和歌山2014年6月11日号掲載)