今年も3月11日が近づいてきました。元県庁職員で、和歌山下津漫画制作同好会を主宰する阪本繁紀さん(29)は、東日本大震災をテーマにした作品『ある光』を制作中です。「南海トラフ地震が予想される地域の方に、被災の実態をリアルに感じ、危機意識を高めてもらいたい」と願いを込めます。

テーマはふるさと

──『ある光』、どんな作品ですか?

 「主人公は東北地方で育ち、震災時、高校3年だった架空の女性です。震災前に営まれていた当たり前の日常から、10年後の2021年までを描きます。7章構成で、現在、漫画は3章までできており、年内完成を目指しています」

──作品を通して伝えたいのは?

 「大きなテーマは『ふるさと』です。私たちを育んでくれる地域で受け取ったものは、たとえ離れても自分を形作るものとして、次に進むべき道を示し続けてくれます。しかし、あの大震災で、東北地方の人たちにとってのふるさとが大きく姿を変えました。福島第1原発事故の影響で住んでいた地域への立ち入りを今も禁じられている人がいます。作品では一人の被災者が震災による変容をどう受け止め、どういった経緯で再び前を向いて進むに至ったかを描写します」

自分ができる表現

作品のワンシーン

 

──出身は?

 「串本町です。漫画は幼稚園に通っていたころから描いていました。大学卒業後、和歌山県庁に4年間勤め、津波防潮堤整備の補助金事務や、紀伊半島大水害後の土砂災害対策を強化する事業などを担当。県庁を退職し、現職である業界紙記者への転職活動中、東北地方を見て回りました」

──印象深かったのは?

 「復興事業の形です。盛土に防潮林として松を植える防災緑地が延々と整備されている福島県いわき市、高さ10㍍を超える壁を築いた岩手県宮古市…。中でも階段状に山をかさ上げし、中央にメーンストリートを通して商業施設を配置した宮城県女川町の形態が特徴的で、巨大な壁を造らず、海が見える美しい形の復興を実現していました。いつの間にか、和歌山県の各地域に適用する場合、どの形が最適かを考えながら、旅を続けていました」

──前職の経験があったからでしょうね。

 「南海トラフ地震に直面する私のふるさとにとって、何らかの道しるべになってほしいとの思いから、自分にできる漫画で表現することにしました。一人の被災者に着目して紡いだ物語を通じ、読者が津波の危険や親しい人との死別を我がこととしてとらえ、地震への備えを強めるきっかけになればと願います」

 

『ある光』

 2章まで漫画、3章以降は脚本を収録した暫定版は300円。同人誌サイトで近日中に販売予定。売上を福島、宮城、岩手の震災遺児支援基金に寄付。阪本さん(KisyuProspers@gmail.com)。

(ニュース和歌山/2022年3月5日更新)