絵は、江戸時代後期の伊太祁曽神社(和歌山市伊太祈曽)付近の風景です。同社は、平緒王子と奈久知王子の間、山東盆地のほぼ中央に位置しています。熊野古道には直接面しておらず、東へ約三〇〇㍍離れたところにあります。

 祭神は、五十猛命(いたけるのみこと)、大屋津比売命、都麻津比売命で、伊太祁曽三神と呼ばれています。五十猛命はわが国に木種をもたらした木の神さまです。

 絵図をみると、神社の鳥居前町(小字宮ノ前)には茶店や宿屋が建ち並び、参詣客らでにぎわっています。一の鳥居をくぐった左側には「岩戸」と記されています。そこには伊太祁曽古墳群と呼ばれる三~四基の円墳があり、横穴式石室の古墳があることは江戸時代から広く知られていたようです。

 二の鳥居をくぐり、朱に塗られた太鼓橋を渡り、石段を上がると、拝殿の正面「本社」に五十猛命、左脇殿(右側)に大屋津比売命、右脇殿(左側)に都麻津比売命が祀られています。三神はともに現在の日前宮の場所に鎮座していましたが、その地を譲って山東へ遷座したといわれています。

関西大学非常勤講師 額田雅裕

画=西村中和、彩色=芝田浩子

(ニュース和歌山/2023年6月10日更新)