日本人になじみ深い「うなぎ」は、ビタミンやミネラルたっぷり、万葉集にも登場するほど古くから愛されてきた食材です。本格的な暑さを迎える土用の丑の日には、家族みんなで食べる人も多いのでは。創業120年超の老舗鰻店「トリハル」4代目・田中利明さんに、おいしさの秘密やこだわりを聞きました。
鶏肉専門から かば焼名店に
「トリハル」は明治時代、和歌山市の中橋付近で創業。戦後まもなく、現在のフォルテワジマ隣に移転しました。屋号は、鶏肉専門店で、創業者の名前が春吉(ハルキチ)だったことに由来します。その後、川魚の販売も始め、1950年代になると、本格的に鰻のかば焼を主力商品として売り出すようになりました。
「和歌山随一の繁華街・ぶらくり丁の賑わいと、店頭で鰻を焼く曾祖父の姿は今も鮮明に残っています」。しかし、97年に4代目を受け継いでからの道のりは平坦ではありませんでした。2001年、丸正の閉店で客足が減少。さらに10年前、鰻の稚魚が高騰し、値上げせざるを得ませんでした。
「このまま看板を守ることができるのだろうか」。先行きを案じ、悩みが尽きない日々。そんな中、娘婿の克将さん(37)が商売を継ぐ決心を固めます。5代目の誕生に、店にようやく笑顔が戻ってきました。
120年のこだわり 5代目に伝授
鰻の販売を始めたころからこだわり続けているのが、「国産」です。仕入れるとすぐ地下水をはった桶に入れ、1〜2日泳がせて泥を吐かせます。関西風の腹開きで手早くさばいて、「焼き」の工程へ。一尾丸々網に乗せてじっくり待ち、ころ合いを見て秘伝のタレをたっぷり流しかけます。
「創業時から大切に継ぎ足して使ってきたタレの材料は、しょう油とみりんと…、他は教えられません」と、茶目っ気たっぷりに話します。鰻は握った時の弾力で産地を判別し、焼く時間を細かく変えます。さらに、「焼き」の名脇役が、紀州備長炭です。安定した強い火力が素材の旨みを引き立てるとともに、鰻に移った炭の香ばしい匂いが、食欲をそそります。
「うちの『焼き』は、家族だけに代々伝わる〝門外不出の技〟。五感を使って煙の出方や香りなどをじっくり見極められるようになって、ようやく一人前です」。今の自身の役割を「曾祖父から祖父、父、そして自分が受け継いできたものを次に伝えること」と語り、「その先は娘夫婦で、ふたりらしいトリハルを築いていってもらえたら」と目を細めます。
克将さんは最近、焼き場も任されるようになりました。120年以上続くトリハルのバトンは、父と娘婿のふたりでしっかりと握り合い、未来へと走り出すところです。
トリハル
和歌山市南大工町20 電話073-422-4088
(営)9:00~17:30※売り切れ次第終了
㊡毎週火曜、第三火曜・水曜は連休
http://toriharu.mods.jp/index.html/
(ニュース和歌山PLUS100号/2023年7月28日発行)
※記事内容はすべて、2023年7月28日時点のものです。
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