所坂王子から熊野古道を加茂川支流の市坪川に沿って遡ると、一壺王子(海南市下津町市坪)に至ります。同王子は沓掛王子ともいい、市坪・沓掛・大窪各集落の産土神になっています。同社の鳥居横には「山路王子神社」の石碑があり、その名のとおり、ここから蕪坂峠(拝ノ峠)までは、徐々に急な山道が続きます。坂を登りきると平坦な峠道に出ます。

 絵は、「蕪坂峠」から西の下津湾方面をみた風景です。同峠は長峰山脈の西端にあり、その由来は鏑矢を使ってシカを射たことによるといわれます。眼下には紀州徳川家の菩提寺、長保寺がみえ、沖には加太から淡路島・四国を望む絶景が広がり、一服するには絶好の場所に茶店が建っていました。今は峠の南側から下津湾を眺望することができます。

 そこから宮原へのおり口には、かつて蕪坂塔下王子(有田市宮原町畑)の社殿と鳥居がありました。さらに熊野古道を山麓までおりると、復興された山口神社の南側には「山口王子跡」(同市同町道)の碑があり、石垣と手水鉢が残っています。両王子は、明治四〇(一九〇七)年ごろ、宮原神社(同)に合祀されました。

画=岩瀬広隆、彩色=芝田浩子

(関西大学非常勤講師 額田雅裕)

(ニュース和歌山/2023年10月14日更新)