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 和歌山特産、湯浅しょうゆのもろみで仕込むチーズ作りプロジェクトが進行中だ。取り組むのは、紀の川市で和歌山県内唯一のチーズ専門店を営む宮本喜臣さん(写真左)。イタリアの工房に依頼しており、2016年末に届いた試作品第1弾は、現地の職人が「このままでも十分売れる」と太鼓判を押す出来だった。題して〝イタリアと日本の「発酵文化」が融合した夢のチーズ開発〟。完成は2017年秋の予定で、宮本さんは「新たな料理文化の幕開けになると信じています」と確かな手応えを感じている。

 宮本さんは、〝チーズ版ソムリエ〟と言われるチーズプロフェッショナルの資格を2008年に和歌山県内で初めて取得。14年にはチーズ専門店「コパン・ドゥ・フロマージュ」を紀の川市桃山町調月にオープンし、和歌山県産のきんかんや梅酒などに漬け込んだり、山椒で風味づけたりと、地元食材とチーズの融合に積極的に取り組む。

 しょうゆを使ったチーズ作りがひらめいたのは12年。イタリアの工房を訪れた時だ。塩水につける工程があり、「その塩水をなめさせてもらったら、しょっぱいだけでなく、昆布だしに入れているような、何とも言えない〝和〟のうまみがあったんです」。

 思いついたものの、「何千年もの文化がある国。いきなり頼んでも受けてもらえないだろう」と、まずは自身の実績づくりに励んだ。トリノで2年に1度開かれる食の祭典「サローネ・デル・グスト」へ14年に参加し、梅酒に漬け込んだブルーチーズで好評を得たほか、現地の工房と梅焼酎を使ったチーズを共同開発した。人脈が広がり、2016年秋、もろみを使っての製造がフィレンツェの工房で始まった。

 もろみは、湯浅町の丸新本家が丹波の黒豆だけで仕込んだものを使用した。2016年末に届いた試作品第1弾はしょうゆ独特の香りやうまみは想像通り。熟成期間が短い割に芳醇(ほうじゅん)で、さらに驚かされたのが食感だった。「ほろほろとほどけるような感じ。幻のチーズと呼ばれるカステルマーニョに近い口どけでした」

 試食した一人が、加太の大阪屋ひいなの湯調理長で和食が専門の赤間博斗さん。「しょうゆの香ばしさ、味噌を思わせるような香りがある。日本料理にもチーズを使うものはあるが、イタリアのチーズよりこれが合わない訳がない。和食に使える大きな可能性を秘めている」と絶賛する。

 もろみを提供した丸新本家の新古敏朗社長は「私も世界各国で発酵の研究をし、それをしょうゆやみそ造りに取り入れていますが、チーズのプロである宮本さんは日本とイタリアの発酵文化をつなげようとしている。それは本当にすごい」と話す。

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 モロミ・フォルマッジョ(イタリア語で「チーズ」の意)と名付けたこの商品。世界的に権威のあるイタリアのグルメ出版社から取材依頼が届き、3月には東京でイタリア料理人が集まって活用法を話し合う勉強会が開かれるなど、完成前から大きな注目を浴びている。秋の完成に向け、さらに磨きを掛ける宮本さんは「〝和食〟〝うまみ〟という言葉がそのままヨーロッパで通じるぐらい日本の食文化が受け入れられている時期で、タイミングはバッチリ。新しい味を世界へ届けたい」と目を輝かせている。

写真下=口溶けが想定以上だったモロミ・フォルマッジョの試作品

(ニュース和歌山より。2017年2月25日更新)