東日本大震災の被災者追悼、復興支援イベント「森の願い」が1月28日(日)午後1時、和歌山市紀三井寺の県立医科大学講堂で開かれる。映画『地球交響曲第8番』上映と、震災時の漂着木で作られた楽器を使う弦楽四重奏。同市出身で東京藝術大学の澤和樹学長らが出演する。企画した南方熊楠記念館の伊良波範子理事は「命の尊さを感じてほしい」と願いを込める。

震災語り継ぐプロジェクト

 『地球交響曲』は、「地球はそれ自体がひとつの生命体」というガイア理論に基づき、龍村仁監督が制作したドキュメンタリー。1992年の第1番以降、8作品を送り出した。第8番は「樹」がテーマ。能面やヴァイオリンの制作者らを取り上げ、「樹に宿る精霊が、能や音楽の演者に乗り移る」との思いを持つ人に肉薄する。

 今年6月に鑑賞した伊良波さんは「生態系は互いに影響し合い、恩恵をこうむり、調和して成り立つ。この考えは、熊楠の主張に通じる」と直感。熊楠記念館が上映会を主催できるよう動き出した。その直後、映画に登場するヴァイオリン制作者の中澤宗幸さん、妻でヴァイオリニストのきみ子さんと交流を始めた。

 実は震災後、きみ子さんが「三陸海岸に流れ着いた家の梁(はり)や床材の松、カエデを楽器にできないか」と提案し、ヴァイオリンやヴィオラ、チェロが完成。「津波ヴァイオリン」と名付けた宗幸さんは、震災を風化させないよう、2012年に多くの人に演奏してもらう「千の音色でつなぐ絆プロジェクト」を開始。国内外530人以上がリレーする。

 中澤夫妻と連絡を取れた伊良波さんは、上映会とコンサートを同時開催することにした。『地球交響曲第8番』に、澤学長が津波ヴァイオリンを明治神宮で奉納演奏するシーンがあることから、出演を依頼。快諾を得た。

 プロジェクトに構想段階からかかわる澤学長は「新しい楽器なのに、様々な方の気持ちがこもっているのか、やわらかい音色で演奏者の気持ちがのる。濱口梧陵の稲むらの火の言い伝えがある和歌山で演奏する意味は大きい。津波警戒の教訓に」と熱く語る。

 追悼と震災の語り継ぎを目的にプロジェクトを進める宗幸さんは「自然災害はいつ降りかかるか分からない。今をどう生きるべきか、津波ヴァイオリンがメッセージを発している」と痛感する。

 津波ヴァイオリンは2年前から和歌山市や海南市の中学3年生向け英語教科書で紹介されている。伏虎義務教育学校の三浦淑美教諭は「世界で弾き継がれていると伝えています」。伊良波さんは「若い人に様々な命がつながっていることを知ってもらい、命を考える機会に」と目を輝かせる。

 記念館は「森の願い」に中高生先着約200人を招待する。往復ハガキに住所、氏名、年齢、学校名、電話番号、メールアドレスを書き、〒649・2211白浜町3601─1、南方熊楠記念館「森の願い」係へ。一般は4000円以上の協賛から希望者を先着で招く。詳細は同館(gaiaminakata@yahoo.co.jp)。

写真=2014年、明治神宮で津波ヴァイオリンを奉納演奏する澤和樹学長(右端)、中澤きみ子さん(左端)ら

(ニュース和歌山/2017年12月9日更新)