様々な理由からひきこもりがちになる人がいる。内閣府が2018年に実施した抽出調査によると、県内のひきこもりは約8000人と推計される。葛藤を経て社会へ復帰するため、昨年11月に紀の川市で新生活を始めた39歳男性、亀ちゃんに話を聞いた。

紀の川市へ移住 39歳男性

 出身は鹿児島。国立大学を卒業したが就職できず、アルバイトや期間従業員として働いたり、挫折してひきこもったりを繰り返し、気付けば40代手前に差し掛かっていた。「途中、資格や公務員試験の勉強もしたが実を結ばず、ずっとあがいている感じ。次第に『また失敗するかも』と、働くことに恐怖を感じるようになった。30歳の時、父が亡くなり、身近に悩みをぶつけられる大人の男性がいなくなった影響も大きい」

「『ありがとう』と言われる仕事が自己肯定感につながっています」と亀ちゃん

 昨年春、知人の誘いで、農業法人が運営する沖縄の自立支援学校に入った。不登校の中高大学生が多く、年長の亀ちゃんは自然と世話役に。農作業や軽作業に達成感を感じつつ、「失敗ばかりの人生を黒歴史と思っていたが、同じような悩みを抱える子たちに伝えることで、自分の体験は無駄じゃなかったと受け入れられました」。

 気持ちが前向きになった10月、訓練所で知り合った紀の川市の20代男性から、「地元に戻るので、一緒に新しい生活を始めないか」と声をかけられ心機一転、和歌山へ来た。同市のNPO法人三敬福祉会居住支援センターのサポートを受け、仲間と農作業に従事。作物の成長を助け、食べるところを想像しながら収穫する作業はだれかと競う必要がなく、素直に楽しいと思えた。

 ヘルパー資格を取得し、農作業のかたわら、1月から高齢者施設でも働く。「和歌山弁の理解に苦労するけど、お年寄りの食事や更衣介助など、お世話を通して役に立てていると実感できる。少しずつ人とかかわりながら自分を取り戻せたら」──。

 同会の片山悟誌代表は「完璧主義から人間関係につまずき、ひきこもってしまう若者が少なからずいる。再スタートや居場所づくりをサポートしていきたい」と話している。

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 同会居住支援センター(0120・15・9480)。また、和歌山県障害福祉課のひきこもり相談電話いっぽラインは(073・424・1713)。

(ニュース和歌山/2022年6月4日更新)