個々に寄り添い独自訓練

 脳卒中患者の復職を支援しようと、紀の川市貴志川町丸栖の貴志川リハビリテーション病院が「職業リハビリテーション」を導入し、3年が経過した。職場内での配置転換や転職も含め、患者の約8割が社会復帰を果たしている。同病院は「若い世代は回復しやすい一方、在宅復帰できてもお金がないと生活できない。人生100年時代、突然倒れた患者さんの〝明日〟を支援したい」と意気込んでいる。

脚立の昇降訓練に取り組む南浴さん(中央)

 鴻池運輸に勤める南浴直樹さんは、大型車両の整備を担当。35歳だった2019年末、脳卒中の一つ、脳梗塞(こうそく)で倒れた。別の病院で手術を受け、翌年2月に貴志川リハビリテーション病院へ。「その時は左手、左足がマヒで動かず、『今後、車いすのない生活は送れないだろう…』と絶望の中にいました」と振り返る。

 懸命のリハビリで、3月末には杖を使って歩けるように。その後、職業リハビリが始まった。大型車両にあるはしごの上り下りを想定し、脚立を使って訓練したほか、はんだ付けやスパナでボルトを締める動作を繰り返した。

 職場には10月に復帰。「その時点で不安はありませんでした。自分自身はまだ病気前の50%程度しか仕事ができていないと感じている。独り立ちできるよう努力を続けます」と前を見つめる。

 同病院が就労支援を始めたのは20年4月。南浴さんを含め、50代以下の脳卒中患者が3人、4人と相次いだのがきっかけとなった。

スパナでボルトを締める訓練

 患者それぞれの体の状態を踏まえ、職場、業務内容を想定し、主治医や理学療法士、言語聴覚士、作業療法士がチームを組み、一人ひとりに合ったリハビリメニューを考える。スーパーの鮮魚コーナーで働いていた人には魚をさばく訓練、美容師には病院スタッフをモデルにヘアカットの練習を用意した。3年間で教員やラーメン店店主、桃農家ら36人が受け、うち20人が元の業務へ復帰。このほか、配置転換が2人、転職が2人、福祉作業所への就労が4人だった。

 理学療法士の田津原佑介さんは「若い世代の方が脳卒中になった時、仕事に戻ることが大きな目標となり、働けるようになれば生きがいができる。患者さんがいつもの暮らしを送れるよう支援するこの取り組みが広まり、多くの方に届けば」と願っている。

(ニュース和歌山/2023年5月13日更新)