米村貴裕さん 事業で和歌山に恩返しを

 近未来を舞台に、行きすぎたバイオテクノロジーの闇を描いたコミック『リサイクル・ブレイン』が1月25日、アメリカのエイゴマンガ社から刊行された。原作は、近畿大学生物理工学部出身で、吹田市在住の米村貴裕さん(50)。「バイオとデジタルの戦いをファンタジーのオブラートで包みました。次はAIをテーマにしたい」。また、運営する会社の事業として、「和歌山をメタバース化し、観光に役立てる」ことも描いている。

 『リサイクル〜』は、米村さんが2012年に出版した同名小説がベース。主人公の山野ハヤテが、ドラゴンなど人造の空想生命体が住むテーマパークのガイドとして働いていた時、パークが攻撃されたことをきっかけに、隠された秘密に気づいてしまう。その後、現実に起きていることと、倫理観のはざまにさいなまれて……。

 元になった小説は出版社の倒産により一度は絶版となっていたが、権利を取り戻し、注文に応じて印刷・製本するPOD書籍として他社から再出版。コミックでの発行を目指し、絵を漫画家の筆野咲(ふでのさき)さんに依頼し、昨年10月に前編、後編の2冊を日本の銀河企画から出した。各1100円。

 実はアメリカでの出版は、日本より前に決まっていた。07年に出していたSF小説『ビースト・コード』を、17年に日本版コミックとして、22年にはアメリカ版をエイゴマンガ社から発行していたからだ。「アメリカではSFが人気でテレビのゴールデンタイムにSFドラマが放映されるほど。加えて、日本の〝マンガ〟ブームが起きている」ことを背景に、現地の出版社に直接売り込み、発行にこぎ着けた。

 内容について米村さんは、「両作とも、単に『笑って終わり』ではなく、科学や生物などをベースに『何かを学べる』点を強く意識しました」。アメリカではマンガにドラマ性やメッセージ性を求める傾向が強くなっており、「『深く読めました』と感想が来たことがあります」と話す。

 今後は「AIをテーマにしたコミックを出したい。ベースとなる小説は10冊以上ありますから」と意気込んでいる。

 一方、2001年に「大学発」として海南市のインキュベーター施設を拠点に有限会社イナズマを立ち上げ、パソコンやプログラミングなどIT関係の入門書を60冊以上発行してきた。03年には近大生物理工の大学院で博士号を取得した。さらに、「イナズマパーク」と名づけたサイトを開設。高野山などの観光名所をキャラクターが紹介し、仮想店舗で買い物できるシステムを稼働させた。「今なら同様のシステムをメタバース化して公開すれば、観光需要に役立つ」ときっぱり。「起業時は和歌山県のスタートアップ事業で後押ししてもらいましたので、恩返しをしたい」と熱を込めた。

(ニュース和歌山/2025年3月8日更新)