20年目に臨場感パワーアップ
楽しみながら学べる場として近年注目されているエデュテインメント施設。和歌山市では資源リサイクル企業の松田商店が2004年にいち早く始め、毎年4000〜5000人の児童を受け入れてきた。20年目を迎える今年、プロジェクションマッピングを導入し演出面を強化。今後ますます深刻化する環境問題を一人ひとりが考える上で重要な役割を担う。
舞台はリサイクル研究所。子どもたちに資源リサイクルやゴミの分別について教えるため、ロボットのクルリンちゃんが登場。しかし、装置がどろりと溶け出し、周りにはコウモリが飛び交い不気味な雰囲気に…。ごう音と共に、ゴミから生まれた怪獣マゼゴミラが姿を現す──。
これは同社が実施する体験型工場見学の導入だ。プロジェクションマッピングの演出により、怪獣のシルエットや雷の映像がおどろおどろしさをさらに増幅させ、ゴミが及ぼす環境汚染への脅威を表現している。6月、工場見学に訪れた同市里の山口小学校4年の岩﨑有生夏さんは「遊園地みたいだったから、環境について楽しく勉強できました」と喜んでいた。
きっかけは1990年代前半。市内の学校から工場見学の申し出を受け、先々代社長の松田洪毅さんは利益を追うのではなく、地域への貢献、還元になればと受け入れを始めた。とはいえ、講義や案内が中心の一般的な形。洪毅さんから任された現社長の多永さんは、説明する側も子どもたちも、途中で飽きてしまわないような工夫を模索していた。
2004年、和歌山大学と共同で、自社工場が舞台の絵本を作り、学校へ寄贈。見学に訪れた児童らが、作中に登場するキャラクターを探す様子をヒントにテーマパーク化を思いついた。06年5月、環境について学ぶエコ・エデュテインメント施設、「くるくるシティ」を完成させた。
キャラクターを使ったアトラクション型の環境学習と、実際の工場を見学する2部構成で、アトラクションの脚本や演技指導は同市の劇団ZEROが協力。20年目の今年はプロジェクター3台の導入でエンタメ性が増し、楽しみながら環境についての知識を身につけられる。案内役を務める社員の尾﨑愛さんは「毎回子どもたちが驚いたり笑ったりする反応がかわいくて、こちらも元気をもらえます」とほほ笑む。
見学では、缶・びんの仕分け作業場やペットボトルの加工場を回り、視覚やきゅう覚など、現実世界で感覚を刺激することで、分別の大切さを覚える。
この取り組みが話題となり、和歌山市を中心に、県内だけでなく大阪からも訪れる。コロナ禍の20年に、リモート版の体験を導入すると、北海道の学校や、支援学校へと広がりを見せた。多永社長は「1人でも記憶に残り、ゴミの分別やリサイクルを考えてくれればいい。それが積み重なればたくさんの人が環境問題を考えるようになる」と熱を込める。
子どもの受け入れにより社員の意識も変化。当初は『どうしてそこまでする必要が』と否定的だった社員が、今では作業場の整理整とんや身だしなみを整えるなど、社内環境の改善にも一役買っている。さらに、エデュテインメント施設を検討する全国の企業が視察に訪れるまでに。松田社長は「子どもだけでなく、初めは興味がなさそうな大人でも、終わるころにはみなさん笑顔になっています。〝一生心に残る工場見学〟をテーマに、これからも進化し続けます」と目を輝かせていた。
(ニュース和歌山/2025年6月28日更新)