「国宝」和歌山城木造復建の会主催のシンポジウム「和歌山城を中心としたまちづくり」が3月25日に和歌山市で開かれました。戦後の和歌山城再建から60年、天守閣の木造再建を軸にお城やまちの魅力を考える内容で、貴重な議論が交わされました。

 中でも小西美術工藝社社長で政府観光局特別顧問のデービッド・アトキンソンさんの講演はインパクトがありました。アトキンソンさんは元々経済アナリストで、日本文化に造詣が深く、近年は訪日観光客増に向け、提言しています。和歌山市でも産業戦略会議のメンバーを務めました。

 アトキンソンさんによると、今後の日本では人口減少で生産人口が激減し、内需だけで経済が回らない状況が進みます。この大打撃を防ぐため外需である観光客の増加は欠かせない。日本政府は、昨年約2900万人だった訪日観光客を2020年には4000万人にしたい考えです。

 そのうえで和歌山城の現状を見ます。西欧から十数時間かけて来る観光客にとれば「失礼な部分も多い」と見所の弱さを突きます。徳川御三家の城への入場者が年間20万人というのは潜在力が生かされておらず、「観光と言えばPRばかり。資源そのものを磨き上げ、ここに来なくてはならない理由をつくらねばならない」と強調しました。

 論点は「和歌山城を経済的活力の源にするか、否か」です。ここ十数年、城内から売店や喫茶店が消え、史跡として純化する方向にありましたが、現在は西の丸能舞台、扇の芝整備、市役所前からロイネット前までの交流空間創出と様々なテコ入れが見えます。天守閣の木造再建の呼びかけも市民運動として始まり、「観光資源そのものの磨き上げ」の流れが生まれつつあります。それが飛躍につながるか、現状維持に終わるか。その分岐点が今なのです。

 「朝な夕なに仰ぐ郷土の象徴和歌山城こそ心の慰藉(いしゃ)であり、強い励ましでもあり、無限の愛郷心をわきたたせる力である」。60年前の城再建時の趣意書のこの言葉が好きです。21世紀は、ここに国を超えた魅力の創出と暮らしの恵みとなる再建。歴史遺産を今に生かす再生を呼びかける時なのでしょう。

 求められるのは先の再建時と同じく、まず市民が理解し、望むことです。今春のお城のにぎわいを見ましたか。四季を問わず、あの光景のある町の姿を実現可能な夢として抱くことです。 (髙垣善信・本紙主筆)

(ニュース和歌山/2018年4月14日更新)