紀の川河川敷で毎年7月の第1日曜に開かれてきた「平和大好きマラソン」が幕を下ろしました。2019年に30回を迎えた市民主催の大会です。昨夏、最終回の実施を計画していましたが、新型コロナウイルス感染拡大で中止。今年も開催を見合わせ、大会を終えました。メンバーの高齢化、昨今の猛暑で、開催が厳しくなったのが理由です。

 始まりはマラソンを愛する人が集まるわかやまランニングクラブの催しです。和歌山城周辺を走っていた時、メンバーの一人が「1945年7月9日の和歌山大空襲の夜、多くの人がお堀に逃げ込んで亡くなった」と口にしました。知らなかった人も多く、「空襲の記憶を留め、スポーツができる平和をかみしめる大会を開こう」と始めたのです。

 当初はお城周辺でしたが、参加者が増え、会場を紀の川の河川敷に移しました。家族参加も多く、走った後のバーベキュー大会も人気となり、多い時は200人を超えました。実行委員会は戦争の体験談や史料の募集を始め、戦争体験者が自らの経験を語る時間も設けました。実行委員会事務局長を務めた林口秀司さん(70)は「戦時中の知らなかった話を聞き、私も戦争の傷跡に敏感になりました。フランスや韓国、サイパンと海外を訪れた際も必ず戦争の遺跡に触れました」。わかやまランニングクラブの清水佳代子代表(71)は「子、孫の世代と平和であってほしい。その気持ちだけでした」と振り返り、「大会は終わってもこの時期には平和への思いをかみしめ走ろうと会では話しています」と語ります。

 開催中の東京五輪では、アスリートの健闘を讃える声もあれば、感染が拡大する中での開催に怒りの声も上がります。見る側が分断された「平和の祭典」は初めてです。

 しかし、思い返せば我々は五輪に「平和あってこそ」との思いでふれてきたでしょうか。世界一有名なスポーツイベントとなり、「平和」をかみしめる姿勢は二の次になっていたのではないか。インバウンドや経済効果が強調され、前提となる平和を築く地道な努力が忘れ去られていたと思えてなりません。政府、東京都、IOC、JOCに命と平和を第一に開催国である日本国民への説明、意思疎通をきめ細く図る努力が見えたでしょうか。その説明の乏しさゆえ、今回の五輪は何かが踏みにじられているようで、入り込めないのが残念です。

 日本の抱える課題が次から次に出てきています。社会を、地域を平和に保つには、説明、理解、協調に軸足を置くことなしにはありえません。市民が身近な地域で平和をたぐりよせ、かみしめる営みがその礎石になると、胸に刻みたいです。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

(ニュース和歌山/2021年8月7日更新)