2017年に始まった連載「紀州百景」が近く100回を迎え終了します。古書肆紀国堂(和歌山市卜半町)店主、溝端佳則さん(61)の1万5000枚に及ぶ明治から昭和の古写真、絵ハガキから同市内の風景を紹介しています。「次世代に残したいと集めてきました。興味を持って見て頂け、ありがたい」と溝端さんは話します。

 溝端さんが和歌山の風景に関心を抱いたのは高校2年。学校図書館で偶然目にした江戸期の地誌書『紀伊国名所図会』です。名所旧跡を紹介する絵図で、現在で言えば観光案内です。全国に数多く残る名所図会でも『紀伊国〜』は紀州藩のお抱え絵師、岩瀬広隆らが絵筆をとり、ち密でユーモアにも富んでいます。「学校で学んだことのない郷土の歴史がありました。特に庶民の姿がいきいきと描かれています。その文章を書き写したほどです」と語ります。

 20代には『紀伊国〜』の原本22巻を購入。休日には実際に描かれた風景を訪れました。最もお気に入りの絵図「有田川の鮎瀧」はそ上する鮎をすくう様子を描いた風情ある1枚です。そんなにぎわいは今はなくとも、往年の姿を重ねると伝わるものがあります。

 古写真収集へはそこから発展しました。仕事場へ絵ハガキを売りに来るおばあさんから買ったり、愛好家の集まりに通い譲り受けました。そのうち古写真での展示会を求められるまでになりました。

 連載「紀州百景」では秘蔵の写真を惜しみなく紹介頂きました。中でも明治から大正に写した鷺ノ森別院と門前通りの写真は貴重です。戦災前の様子を今に伝えるのはこの一枚のみ。「100年前の風景には驚きがある。古いものなのに非常に新鮮です」

 お城の外堀を埋め立て中に撮影した湊橋、商家が建ち並ぶ納屋河岸、妹背山下がり松、四箇郷の一里塚……。過去の紀州百景はニュース和歌山HPからご覧になれます。写真を目にし、現在の姿を見ると、昔の面影がかすかに重なります。そして時代が失った風情を見せつけられ、進歩を問いたくなります。「存在は知っているけど見たことのない写真もまだあります。古写真はつい捨てられがちですが、町の宝です。手元にあれば、ぜひ教えてほしい」と力を込めます。

 連載は残すところ4回。溝端さんは変わらず、まだ見ぬ故郷の光景を求めます。 (髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

写真=紀国堂には古写真のファイルがずらり

(ニュース和歌山/2021年11月6日更新)