事故や病気で脳が損傷し、注意力低下、記憶障害など様々な症状が起こる高次脳機能障害。当事者向けの就労支援施設「てとて」(和歌山市里)が8月、新たに「よろず相談窓口」を設けました。地域のお年寄りから生活全般の悩みを聞き、支援機関につなぐのに加え、条件が合えば高次脳機能障害者が職業訓練として高齢者からの相談内容にこたえる試みです。

 高次脳機能障害は、症状の表れ方や程度が人によって異なります。同施設は障害者のできることを生かした訓練の一つとして、今春から高次脳機能障害者が高齢者の買い物や病院に付き添う活動を行っています。

 元介護福祉士で脳こうそくを患って記憶障害を負った男性は、96歳女性の病院に付き添う際、認知症で足腰が弱い女性の車の乗り移り、車いすの移動を手助けしました。すると、男性は介護職員だった自分を思い出し、元気がわいてきたそうです。

 施設を管理する柏木克之さんは「普段〝支えられる側〟の人が〝支える側〟になった時、自分の存在意義に気づきます。『ありがとう』の一言が大きな励みになるんです」と話します。

 付き添いは、ほぼ毎日2〜3件、月に50件近く予約待ちになるほどの人気で、施設を運営する和歌山高齢者生活協同組合のシニアボランティアが応援スタッフに加わります。経済的に苦しく、身寄りのないお年寄りからの依頼が多く、長い時は5〜6時間付き添います。そんな中、生活で困っていることや不安を聞く機会が増えたそうです。

 「オレオレ詐欺に遭いそう」「自閉症の孫の将来が心配」「相続はどうすれば」…。付き添いを通じ、様々な悩みを抱えつつも、どこへ相談すれば良いのか分からず、相談するきっかけをつかめずにいるお年寄りが多いことが分かりました。高齢協の内田嘉高さんは「行政の相談窓口もありますが、普段付き合いの中にある何気ない一言に織り込まれた気持ちを聞き手が主体的に拾ってこそ、生きやすい社会につながる」と強調します。

 人口が減少する将来、行政の公的サービスが縮小するのは避けられず、暮らしを支える家族や近隣住民の役割は大きくなります。暮らす人の心に耳を傾け、支え、支えられる関係をつむぐ「てとて」のような取り組みが広がれば、未来はきっと、暮らしやすくなるはずです。

 てとて(073・461・6756)。 (林)

(ニュース和歌山/2018年8月25日更新)