和歌山市のデザインユニット、リ・ビーンズの岡記生さん(59)が3月、ダイレクトメールのコンテスト、全日本DM大賞(日本郵便主催)で銅賞を受けました。

 この1年、企業のDMから優秀作を選ぶもので、大手広告会社が大企業の商品を扱った作品がひしめきます。入賞作への評価の大半は「新規受注につながった」「売上アップした」などですが、岡さんへは「心揺さぶられた」。作品は長年、同市で皮革製品を取り扱ってきた原田産業の「廃業のお知らせ」でした。

 岡さんは約20年前に同社の原田秀樹社長と知り合い、同社のポスターなどをデザインしてきました。原田社長は常に業界の未来を考え、植物タンニンで革をなめし、全工程を無公害で製造する、環境にやさしい「オーガニックレザー」を生み出しました。その未来志向の行動力に岡さんは魅せられました。しかし、9年前、62歳で社長が急逝。昨年、廃業を決め、あいさつ状の製作を妻の百合子さん(70)から依頼されたのです。

 「社長の人柄、思いをつなぐ」。岡さんは以前、加工の過程を工場で撮影した写真を探し、社長の顔写真、百合子さんが働く姿をつづら折りの小さなアルバムのようにし、組合記念誌に社長が記したメッセージをそえました。二つ折りのあいさつ状は開く時に手のふれる所に革を施し、その感触とともに百合子さんの感謝の言葉が続きます。「革の歴史博物館を作る夢は叶わなかった」の一文に胸がうたれます。百合子さんは「県外から嫁に来て昔ながらの大家族、仕事と苦労がありました。そのことを知り、支え合ってきた人から『お疲れ様。よくここまでやってこれたね』と心からねぎらって頂き、電話口で泣きました。社長や私の心にあった思いをよく表現してくれました」と感謝します。

 他の受賞作も質は高いですが、ここからは一人の男の生き様、支えた家族、人とのつながりの大切さがさりげないながら強く伝わります。忘れてはならない心の芯にダイレクトにふれる気がします。

 「美しくしまうと同時に未来へ何か残したかった」と岡さん。その視点がいかに人間的で優しく、物事の本質に至るか。一通のDMに教わります。(髙垣善信・本紙主筆)

(ニュース和歌山/2019年6月1日更新)