新聞や図書を朗読、録音し、視覚障害者に届ける「和歌山グループ声」が今年発足50周年を迎えました。ボランティアの概念が一般的になる前からの活動は「声を届ける」情熱に支えられてきました。

 発足は1970年です。名誉会長の山本和子さんは、子どもが通う小学校に視覚障害のある母親がおり、「『学級便り』が読みたい」と望んでいると知ります。山本さんら鳴神団地読書会の5人は会をつくり、その母親のために「学級便り」の録音を始めました。

 その後、民話の朗読、和歌山市盲人協会と料理本の録音テープの作成を行います。76年には『県民の友』、80年からは『和歌山市報』の録音と行政の情報発信の一翼を担います。87年にはニュース和歌山を読み、視覚障害者に届ける「声のニュース和歌山」も始めました。

 現在、会員は約90人。朗読を本格的に学ぶ人、定年後の生きがいを求める人、交流を楽しむ人と様々です。担当ごと10班に分かれ、練習を重ね集まり、発音やアクセントを確認し録音します。小学生のジュニア会員も49人います。

 特筆すべきはその姿勢です。「感謝されるのがやりがいですか?」と西山基子会長、井上きみ代副会長に尋ねると、感謝を求め励みにしているのではないとの答えです。「私たちは情報を受けとれて当然で、『テレビさん、ありがとう』と別に感謝しません。同じように視覚障害者の方へ当たり前に情報が届く社会にならないといけない。自分たちはその歯車だと考えています」と熱を込めます。

 また、人間の声だからこそ伝わるものを守ります。中止になった50周年発表会は「ことだま永遠に」と題し、古典や文学作品を朗読する予定でした。西山会長は「読むだけならAIで事足りますが、AIに言葉の魂を伝えることはできません。人間の感情は豊かで複雑。細かなニュアンスは人間にしか伝えられない。朗読は目指すところが尽きず、読むことへの情熱が会を支えています」と話します。

 新型コロナウイルス感染拡大で集まれず、活動が危ぶまれましたが、各自が録音する形で広報紙の録音は乗り切りました。あるべき社会像、人が人たりうる地点を〝声〟に求めた同会。変化する時代の中で、人と人がかかわるうえで欠かしてはならない尊厳、温もりを守る姿に敬意を覚えます。(髙垣善信・ニュース和歌山主筆)

写真=今は感染対策を図り、録音を進める

(ニュース和歌山/2020年9月5日更新)