新和歌浦を芸術の発信拠点に育てようとする人がいます。廣瀬茂之さん(62、写真)です。和歌浦湾を一望できる元高級料亭、石泉閣を「和歌浦芸術区」として改装し、昨年末にオープンしました。

 施設は4階建てで、バリ島の画家の作品展示や、地元芸術家の作品を販売するコーナー、また西洋絵画の模写作品を並べ、ルネサンスから印象派に至る表現の歴史を学べる企画展示もあります。かつての宴会場を改修した一室もユニークで、上映会やライブに活用できます。和歌浦湾を見渡せる窓辺の空間は魅力的で、土地からインスピレーションが得られそうです。

 大阪出身の廣瀬さんが和歌山へ移住してきたのは1999年。ウインドサーフィンのついでに偶然、新和歌浦を訪れ、魅力にとりつかれます。

 貿易の仕事を通じ、東南アジアの絵画作品に親しんでいた廣瀬さんは、バリ島のウブド村のようなアート発信地を造る夢を抱いていました。

 ウブド村は豊かな自然の中で、絵画や舞踏、音楽に触れることができる芸術村です。普段農業をしているような生活者が表現活動を行い、観光客から収入を得る仕組みができています。「新和歌浦ならウブド村ができる」。その思いでこれまで2度、私設美術館を試み、今回は5年かけて新施設を立ち上げました。

 和歌浦愛も深く、ここを舞台にした映画もこれまで5本制作しています。今回の施設もたった一人で、完全な手作りです。その思いの強さはどこから来るのでしょうか。

 「海、山と自然が豊かで、歴史、古い街並、港もあって適度に都会でもある。良いものが一つの場に凝縮され、アートが育つ土壌を感じる」と新和歌浦を讃えます。「アートを志す若者が集い、新しいものを発信し、育つ人が出て来てほしい。ここからすごいものが〝できる〟。その〝できる〟を伝え、さらに育てたい」と熱を込めます。

 今後は春以降、新型コロナウイルスの影響で中止になった朗読会、着物のファッションショーなどのイベントを開く計画です。「遠慮せず、どんどん入ってきてほしいですね」。町に一緒に夢を描く仲間を募ってゆきます。

 入場無料。午前10時〜午後6時。火曜休館。同施設(073・447・9170)。 (髙垣善信・本紙主筆)

(ニュース和歌山/2020年10月3日更新)