昨年の厚生労働省の発表で、2012年時点の日本の子どもの貧困率が16・3%という高さであることが明らかになりました。これは1人あたりの可処分所得が年間122万円未満で暮らしている18歳未満の割合です。平均すれば通常規模の1学級に5〜6人はこうした子どもがいることになります。

 このような経済状況の家庭で育つ子どもたちは、栄養、医療、安全の確保、情緒面など、健康的に成長する上で基本的な条件をも欠く場合があります。加えて、学力の獲得、進路希望の形成などの面においても、大きなハンディキャップを負わされており、深刻な社会的問題であることを示す事例の報告や統計的なデータは後を絶ちません。

 現代の日本社会では全体の貧困率も上昇を続けており、それ自体が深刻な問題です。しかし、あえて子どもの貧困を取り上げた理由は、3つあります。

 第1に、子どもたちは自分で生まれてくる家庭環境を選ぶことができません。その意味で、子どもの貧困問題は決して自己責任に帰すことのできない問題だからです。第2に、子どもの貧困は現時点での困窮だけでなく、子どもたちの成長に悪影響を及ぼすことによって、社会全体の将来に暗い影を落とす問題だからです。そして第3に、子どもの貧困とはすなわち子育て世代=現役で働いているべき世代の貧困問題だ、ということです。

 ダブルワークもいとわず、自分の健康も時に犠牲にしながら懸命に仕事に出ている若い親御さんの世代が、働いているにもかかわらず貧困にさらされているという日本社会の現実が、そこに映し出されています。「規制緩和」の名による、まっとうな雇用の破壊がその背景にあるのです。

 こうした状態を改善するためには、何よりも政府による財政出動と雇用規制の強化(回復)が求められます。そしてそれらを実現するためには、幅広い人々が現在の状況を知り、対応の必要について世論を形成していく必要があります。ぜひ、この問題への意識のアンテナを高くし、理解を広げていただければと考えます。

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 和歌山大学とニュース和歌山は毎月原則第1土曜、和歌山市西高松の松下会館で土曜講座を共催しています。次回は10月3日(土)午後2時。講師は観光学部の大井達雄准教授で、演題は「人口減少社会の到来と統計利用」です。

(ニュース和歌山2015年10月3日号掲載)