小さいころからよくしてくれている近しい人が、がんの宣告を受けました。その知らせは突然でした。何をどう対応すればよいのか、何と声を掛ければよいのか。本人でない者でさえ頭が真っ白になり、その日の夜は眠れませんでした。

 本人のショックは推し量れないほど相当なもので、数日間ふさぎ込んでいました。ただ、病は待ってはくれません。主治医によると「2週間後には手術をしないといけない」。がんとは無縁だった本人や家族、周りの私たちがたった2週間で手術をするかしないか、どの治療法を選ぶかの命にかかわる選択をせまられました。セカンドオピニオンを聞くには主治医の紹介状が必要で、予約手続きには1週間かかる。手術費をどう賄うのか、保険はどの程度きくのか。様々な医療の制約と、知識不足を思い知らされました。

 和歌山県では1979年から変わらず、死因の1位はがんです。胃がん、肺がんと種類によっては他県より高い死亡率を示してきました。そのため、県は4年前、がん対策推進条例をつくり、専門医療の充実や検診の受診率アップに向けた啓発運動と、対策に力を入れています。民間団体もしかり、和歌山城で24時間歩き続けてがんと向き合い、患者を支援するイベント、患者が経験を語る公開講座を開くなど活発です。ただ、どの団体も口をそろえて嘆きます。「これだけ訴えても、がんに向き合ってもらえない」

 選択をせまられた2週間で響いたのは、経験者や医療従事者らでつくるNPO法人いきいき和歌山がんサポートのメンバーの言葉でした。「正しい知識を持っておくと、自分らしい生き方ができる」。がんに対する知識や治療法、医療費、保険といった制度、相談できる機関を知っておくこと。そのメンバーは、これらの正しい情報を持っておくと、「より自分にとって納得のいく選択ができ、動揺せずに対処できる」と言います。

 2人に1人ががんになる時代と言われて長いです。「がん=不治の病」という過去のイメージがあり、向き合うことを拒んでしまうのかもしれません。「まさか自分が」とだれしも思うほど、津波や地震のように突然降りかかります。定期検診はもちろんですが、防災グッズをそろえるように、大切な人や自分の命を守るために知識を備えておく。それが、がんと向き合う一歩だと思います。(秦野)

(ニュース和歌山2016年6月11日号掲載)