「大丈夫ですか」。先日、あるビルの前で困っていた車いすの老夫婦に声をかける男性を見かけました。妻が車いすを押してビルから歩道に出ようとするのですが、高さ15㌢ほどの段差があり、どう下りれば良いのか迷っていたようです。男性は「後ろ向きに下りると、乗っている人も安心ですよ」とアドバイス。2人は「ありがとう」と笑顔を見せていました。

 この様子を見て思い浮かんだのが「あいサポート運動」。困っている障害のある人に声を掛け、ちょっとした手助けをすることで、だれもが暮らしやすい社会を目指す運動です。2009年に鳥取県が始めた取り組みで、全国8県に広がり、和歌山県も9月から出前講座を実施。受講者には、障害のある人たちが助けを求めやすくするための目印となるサポーターバッジが贈られます。

 この出前講座を先月、所属する青年団体で受けました。視覚障害者は点字ブロックの上に停められた自転車にぶつかってこけてしまい、聴覚障害者は銀行で名前を呼ばれても、なかなか気づけません。健常者が〝当たり前〟にしている行動が、障害者にとって大変なのです。障害がある人は、周囲に気を使って助けを求めにくく、健常者もそういった人に声を掛ける際、少し勇気が必要です。その〝すれ違い〟を埋めるのが「あいサポーター」の活動です。

 講座で、印象的だったのは「社会的障壁」という言葉です。障害のある人が身の回りのことで不自由になっている場合、その原因を身体の障害にあると思いがちです。しかし、社会的障壁という考え方は、障害の有無を問わずだれもが利用できる環境になっていない社会自体に障害があるととらえます。海外ではこちらが浸透しているようで、先の男性のような行動が自然とできているそうです。

 今年4月には障害者差別解消法が施行され、施設のバリアフリー化が行政機関は義務化、民間事業者も努力義務化されました。県内には障害者手帳を交付されている人が7万3000人おり、高齢化が進む今後、身の回りのことで困る人は増えてきます。

 施設のバリアフリー化が進む一方、困っている人を支える意識を広げることも大切です。「大丈夫ですか」。笑顔を広げるこの一言の積み重ねが、だれもが暮らしやすい社会の実現につながるのです。      (林)

(ニュース和歌山2016年11月26日号掲載)