ニュース和歌山正月号恒例企画「干支が主役!創作童話コンクール」。今年は小中高校生200人から、さるが元気いっぱいに活躍す る作品が寄せられました。その中から最優秀賞に輝いたのは、海南市立亀川中学校1年、東尾凜さんの『まっかっか』。漫画家、いわみせいじさんのイラスト入 りで、東尾さんの作品をお楽しみください。

 2008年のねずみに始まり、9回目を迎えたコンクール。審査は昨年、一昨 年と同じく、ニュース和歌山で四コマ漫画「和歌山さんちのハッサクくん」を連載する海南市出身の漫画家、いわみせいじさん、地域で絵本の読み聞かせを行う おはなしボランティアきいちごの代表、北裏祐子さん、14年に児童文芸新人賞を受賞した和歌山市出身の児童文学作家、嘉成晴香さんが担当しました。

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  今回は小学生88人、中学生79人、高校生33人の計200人から応募がありました。例年通り、応募者と学校の名前を伏せて審査した結果、さるの特徴を生 かしたストーリーで、魅力的なタイトルが光った東尾さんの『まっかっか』が最優秀賞に選ばれました。また、続く優秀賞は例年、2作品のところ、いずれ劣ら ぬ3作品が選出されるなど、レベルの高さが目立ちました。

 なお、優秀賞以下の入賞7作品は1月9日以降のニュース和歌山土曜号で順次掲載します。

 

まっかっか

 あるところに、さるくんというさるの男の子がいました。さるくんには、あるなやみがありました。それは、自分のおしりがまっかっかだということです。「こんなおしりじゃ、大好きなうさぎちゃんにも会いに行けないな…」。さるくんは、はあーっと深いため息をつきました。

 するとその時、「ピーンポーン、ピーンポーン」とげんかんのチャイムが鳴りました。さるくんはあわててタオルをこしにぐるぐると巻きつけ、げんかんに向かいました。「はーい、どなたですか?」「さるくん、私だよ。ねずみだよー」

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 ドアを開けると、ねずみの村に住んでいるねずみちゃんが、ぴょこぴょこ走り回っていました。「さるくん、また一人っきりでお家の中にいるの? 外で一緒にあそぼうよ!!」

 ねずみちゃんはそう言って、さるくんのタオルをぐいぐいと引っぱりました。するとさるくんは、「だめだよ!! こんなおしりじゃ笑われちゃうよ!! お家の中であそぼうよ!!」と言って、ドアをバン!!と閉めてしまいました。

 「リンゴでも食べながら、一緒にゲームをしよう」と言って、さるくんはリンゴをむしゃむしゃと食べ始めました。するとねずみちゃんが、「さるくん!! さるくんはいっつもリンゴばっかり食べているからおしりもまっかっかになっちゃったんじゃない!?」と言いました。

 それを聞いたさるくんは、リンゴを全部たなの中に入れ、そのたなにガチャリとかぎをかけました。「これで、もう大丈夫!!」

  さるくんがうれしそうにキキキと笑うと、「ピーンポーン、ピーンポーン」とチャイムの音が鳴りました。「さるくーん!! オレだよ。犬だよ」「犬くん!!  よく来たね。今日は外であそぼうか!! 今は丁度、夕日も見える時間だしね」と言って、さるくんは外にとびだして行きました。

 「ぼく、夕日を見るのが大好きなんだ。胸がほわってあたたかい気分になれるんだ」と言いました。すると犬くんが、「さるくん!! さるくんはいっつも夕日ばっかり見ているからおしりもまっかっかになっちゃったんじゃない!?」と言いました。

 それを聞いたさるくんは、すぐに家の中へかけこみ、部屋中のすべてのまどのカーテンを閉めてしまいました。「これで、もう大丈夫!!」

 さるくんは先程と同じように、キキキと笑いました。しかし、ねずみちゃんにも犬くんにもその声はどこか悲しそうに聞こえました。

 さるくんをなんとかして元気づけてあげられる方法を考えていると、「さるくーん!! いる? 私だよ。うさぎだよ」。うさぎちゃんが、さるくんの家にあそびにやってきたのです。「夕日がキレイだから、みんなで一緒に見ようと思って」と、うさぎちゃんが言いました。

 するとさるくんは、「ぼくは今、赤いものを見たり食べたりできないんだ…。ごめんね」と言いました。するとうさぎちゃんは、「私は赤が大好きよ。さるくんのまっかなおしりだって、すごくキレイと思うわ」「そうなの!?」

 するとさるくんはタオルをとって、外であそぼうと言いました。その日以来、さるくんは思いっきり外であそべるようになりました。

 

「大切なのは見た目じゃなく〝心〟」

16010389_higasio最優秀賞の東尾凜さん

  中学校ではバレーボール部に所属する東尾さん。審査員から高評価を得た『まっかっか』とのタイトルは、「〝赤〟をそのまま伝えたかったから」と笑顔を見せ ます。作品が完成するまでは3、4日かかったそう。「幼稚園に通うぐらいの子どもたちが読みやすいようにと考えました。見た目だけが大事なんじゃない、一 番大切なのは心なんだよということを感じてもらいたい」。そう願う東尾さん、将来の夢は小学校の先生です。

写真=ハリーポッターシリーズなどファンタジー系の本が好きな東尾さん

 

 

漫画家 いわみせいじ審査員

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  タイトルの『まっかっか』は応募作の中では秀逸。作中、ねずみ〔リンゴ〕→犬〔夕日〕→うさぎ〔夕日〕と夕日が2回続きます。犬くんの〔夕日〕の代わり に、イチゴ、ダルマ、金魚、ポスト、バラ、トウガラシなど他の赤いキーワードを使えば、最後の〔夕日〕がより効果的になったでしょう。それにつけても中学 1年でこの構成力。文句なしの最優秀賞です!

 

 

おはなしボランティア きいちご代表 北裏祐子審査員

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  「おしりが赤い」という、さるの特徴に視点をあてたところ、またそのことで悩むさるくんの心の動きもよく書けています。登場する動物たちのことば遣いもや さしく、最後のうさぎちゃんのことばで、みんなが幸せな気持ちになれました。文章もストーリーもしっかりしていて、『まっかっか』という題名も想像力をか きたてられる作品ですね。

 

 

児童文学作家 嘉成晴香審査員

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  まず、思わず読んでみたくなるタイトルがすてき。ねずみちゃんと犬くんの悪気ない意地悪にはクスッと笑ってしまいました。ぐるぐる、ぴょこぴょこなどのテ ンポ良い擬音語が、登場人物達のかわいらしい仕草を助け、物語をまるくあたたかに仕上げています。うさぎちゃんの目、もしかしてまっかなのでは? さるく んのことが好きだから、かもしれませんね。

(ニュース和歌山2016年1月3日号掲載)