ニュース和歌山正月号の恒例企画「干支が主役! 創作童話コンクール」。11回目の今年は、十二支の中で最も身近な動物、いぬを主人公にした122作品が寄せられました。最優秀賞に輝いたのは、海南市立大東小学校2年、宮尾美玖さんの「ぼくは、犬のリック」でした。漫画家、いわみせいじさんの挿絵と共にお楽しみください。

 創作童話コンクールは2008年にスタート。今回は小学生88人、中学生2人、高校生32人の計122人から力作が寄せられました。

 審査員を務めたのは、ニュース和歌山土曜号で「和歌山さんちのハッサクくん」、第2・4水曜号で「チャーラがひとりごと言うチャーラ」を連載する海南市出身の漫画家、いわみせいじさん、1996年から和歌山県立図書館や保育園などで絵本の読み聞かせ活動を行う「おはなしボランティアきいちご」の中村有里代表、2014年に児童文芸新人賞を受賞した和歌山市出身の児童文学作家、嘉成晴香さんの3人です。

 結果は表の通り。入賞7作品中、6作品が小学2・3年生と、低学年で優れた作品が目立ちました。そんな中、愛犬をモデルに、犬目線でしたためた素直な文章が光った宮尾さんの作品が最優秀賞に選ばれました。

 なお、優秀賞以下の入賞6作品は1月6日以降のニュース和歌山土曜号で順次掲載します。こちらもお見逃しなく。

 

ぼくは、犬のリック

 ぼくは、犬のリック。白のしば犬だ。おとうさん、おかあさん、おねえちゃん、おとうとの4人家ぞくの一いんだ。みんな大すき。4月からかわれている。

 そして、前からけいかくしていたりょ行に今日から明日まで行くことになった。でも、ぼくは行けない。おるすばんだ。

 「ワンワン、行かないで」と言っても犬のことばは分かってくれない。おとうさんたちは、「リック行ってきます」と言った。「ぼくも行く」。ねー、分かってくれないんだよ。

 あーあ、みんなりょ行に行ってしまった。でも、夕ごはんはさい近うちに来てくれる、うえ木やのおじさんが来て、えさをくれた。すごくうれしかった。おじさんは、ぼくのことを友だちと言ってくれる。でもおじさんが帰ったらさみしい。ねたりボールであそんだりした。だんだん日がくれてきた。ぼくは、こわくなった。

 8時になった。とおぼえが聞こえた。近じょのそらちゃんかな? あずちゃんかな? と思ったらジョンだった。ジョンはくろくて大きい犬だ。いつもかいぬしにはやさしいけど、ぼくたちにはほえかたがこわい。

 少しまっていたら、ジョンがさんぽで家の前を通った。会うのは、とてもひさしぶりだ。ぼくはうれしくなって、「ジョンいっしょにあそぼう」と言った。ジョンのほうも、「リック、ボールであそぼう」と言ってくれた。おたがいしっぽをふりあった。けれどジョンのかいぬしは、ぼくたちのことばは分からず、さっさと行ってしまった。いつも電気がついているへやも、今日はついていない。「くらくてさみしいな」。色んなことを考えているうちにねていた。

 次の日の朝になった。おなかがすいたなあ。と思ったら、おじさんがしごとに行く前にえさをやりにきてくれた。すこしあそんでもらった。おじさんが、「夕方になったらみんな帰ってくるよ」と言ってくれた。ぼくはわくわくしてきた。一人だけど、さみしくなくなってきた。

 まちにまった夕方になった。みんな帰ってきた。みんな車を止めてすぐにぼくのところにとんできた。「わーリックただいま!」とおねえちゃんが走ってきた。ぼくは今までにないほどしっぽをふった。おねえちゃんもすごくなでてくれた。ぼくはおねえちゃんのかおをなめた。とてもうれしそうだった。

 家の電気がついていて色んな声が聞こえてくる。とてもうれしい。今夜は、ぐっすりねむれそうだ。

 今日は月曜日だ。いつもの毎日が始まった。みんなしごとや小学校に行く。朝ごはんはおかあさんがくれる。ぼくは、おかあさんにしかしっぽをふらない。おねえちゃんは、「ふってくれない」と言いながら学校に行く。帰ってきたらふってあげるからね。

 ぼくは、こんな毎日がすきだ。

 

愛犬目線でアイデアどんどん

 本が好きで、「近所の図書館で借りて、1週間に2冊ぐらい読みます」と宮尾さん。『ボクの犬』『ごみを拾う犬もも子』など犬が出てくる本もお気に入りだとか。

 今回の作品に出てくるリックは、自宅で飼っている愛犬。最初はいとこが飼っている犬と2匹が登場する話で書き始めましたが、うまく仕上がらず、実際に家族旅行でリックが留守番した時のことを題材に、リックの目線で考えると、アイデアがどんどんわいてきました。「完成した時は、賞を取れるかどうかは分からなかったけど、良いのが書けたと思いました」とにっこり。

 驚くことに、来年の干支いのししを主役にしたストーリーがすでにできているそうです。

写真=童話で〝主演〟したリックと宮尾さん

 

漫画家 いわみせいじ審査員

 「家族全員で旅行に出かけた」。ごくありふれた日常のひとコマ。ただ、これは留守番をして家で待っている側の「犬のリック」の話。作者はそのリックの立場になって様々な気持ちを感じとり、伝えてくれています。もちろん、私自身も犬になったことはないのですが…、「こういう心持ちなんだろうなぁ」と共感できます。作者の優しい思いやりが伝わる一編です。

 

おはなしボランティア きいちご代表 中村有里審査員

 白い柴犬リックの心情を通して、家族のつながりと何気ない日常の大切さが伝わる作品でした。留守番をするさびしい気持ちを「いつも電気がついているへやも、今日はついていない」、帰って来たうれしさを「家の電気がついていて色んな声が聞こえてくる」と、家族がそろう喜びが感じられ、最後の「ぼくは、こんな毎日がすきだ」から、ぼくの気持ちが伝わりました。

 

児童文学作家 嘉成晴香審査員

 主人公、犬のリックの心の温度、そして見ている世界の気温の変化までが細やかに伝わってくるすばらしい作品でした。行間に息遣いが聞こえてくるようです。セリフも効果的に入れられていて、文章に無駄がないのもよかったです。物語の長さが限られている中、リックと家族、リックとご近所さん、家族とご近所さんの間柄を書き切ったのにも感心しました。

(ニュース和歌山/2018年1月3日更新)