これは、小学3年生の男の子と、茶色くてフワフワして、見た目はかわいいが、中身はおじいさんぽい、ある小犬との話である。

 ある日、学校で友だちとドッチボールをしていると、線から出ているかどうかで言いあらそいになった。「おい、線出ているぞ」。ぼくは言った。「ギリギリ線の前だったもん」。友だちが言った。「1㌢出たら反そくだ。ルールをまもれよ」。すると友だちが、「お前、細かすぎるよ。少し出ただけでそんなにおこるなんて」。そう言われて、ぼくはかなりきずついた。

 家に帰った後、イヤイヤ買い物について行った。とても長く感じた。ぼくは、ペットコーナーに行ってみることにした。その時、なんと、ガラスのショーケースに入っている茶色の小犬が話しかけてきた。

 「お前さん、うかない顔しているのぉ」と、小犬が言った。「え、犬が話しかけてきたぞ。君、人間の言葉が分かるの?」。ぼくは言った。ほかの人には聞こえていないようだ。「そうじゃ、わしは何でも分かるんじゃ。なやみがあったら言ってみぃ」と、その小犬はえらそうな顔つきで言った。

 「きょうね、休み時間にドッチボールしてた時にね、ルールをやぶってる友だちに注意したんだ。それが細かすぎるぞって言われて、とってもきずついたんだ。カッとなって、きつく言ってしまったんだ」「おこりすぎはよう注意じゃ。相手の気持ちも考えるんじゃ」「そういえば、相手の気持ちなんて、考えてなかったな」。ぼくは反せいした。すると小犬が、「思いやりじゃ。それはな、正しいことは大切じゃ。が、しかしのぉ、お前さんがいきぐるしくなっては、いかんのじゃ」。ふしぎな小犬だなぁと思いながら、ぼくは家族と家に帰った。

 次の日、ぼくは友だちにきつく言いすぎたことをあやまりに行こうと思った。そしたら友だちがあやまってきた。小犬の言っていたとおりだと思った。気持ちがすっきりしてきた。その夜、お母さんに言いあらそったことや、茶色い小犬のことを話した。お母さんは、「言い方はむずかしいけど、なか直り出来てよかったね」と言って、ほめてくれた。ぼくは、その小犬がすきになってきていた。小犬はぼくに大切な事を教えてくれた。

 その日から、あの茶色のフワフワした小犬をかいたくなってきていた。小犬をかったらいっしょにやりたいことのリストも作った。毎朝さん歩をしよう。エサやりもがんばらなきゃ。フリスビーもやりたいな。あのフワフワの毛にブラシをかけたら気持ちいいのかな。ぼくの方がしつけられるかも知れないけど、家族になりたいなと思った。

 また買い物について行った。ぼくは小犬に会いたくてルンルンしていた。すぐ買ってほしかったけど、たん生日かクリスマスか、プレゼントに買ってもらおうと思った。スキップする気持ちで、ぼくはペットコーナーへ急いでいた。

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 おはなしボランティアきいちご、中村有里審査員…何度読んでも、小犬の「思いやりじゃ。それはな、正しいことは大切じゃ。が、しかしのぉ、お前さんがいきぐるしくなっては、いかんのじゃ」という言葉があたたかく、印象的です。自分を大切にできるからこそ、人にも優しくなれるのですね。

(ニュース和歌山/2018年1月27日更新)