森をものすごい速さで走っているイノシシがいました。彼女の名前はハナ。猪突猛進で好きなものを見つけると、まっしぐらに走っていきます。そんな性格のハナは、木の影から何かを見つめていました。その先にいるのはウサギの男の子です。

 「はぁー、ピョン君。とってもかっこいいブヒー。あのジャンプ力すてきブヒー」とハナがつぶやいていました。するとハナが何かを思いついたように、ポンと手をうちました。「私もジャンプ力をきたえるブヒー」

 そして次の日から特訓を始めました。高く跳ぶのは難しく、いつもこけてばかり。でもハナはあきらめませんでした。ずっとずっと練習をしました。ハナは本気でした。何回も跳んで、ころんで、跳んで、やっと少し高く跳べるようになったのです。ハナは喜び叫びました。「やったーブヒ! これでピョン君も振り向いてくれるブヒー」

 こうして本番! ハナは、ピョン君のところへ勢いよく走りました。が、止まりません。でもハナは、ピョン君の前でジャーンプ! ピョン、ピョーンとはねながら、「好きブヒー」と告白。最後にピョーンと跳び終わると、ピョン君がそっけない声で言いました。「ごめん。今は恋とかじゃなくて、トレーニングに集中したいんだ…」。ハナはそれを聞くとビューンと走って行きました。悔しさと悲しさでいっぱいでした。

 恋の傷を忘れようと、ズドドドドーと走っているハナの前に現れたのは、にわとりのコッコ君でした。キキキーッと止まったハナは一目ぼれ。コッコ君の心に愛のハートをぶつけていました。そんな事にも気がつかないコッコ君は、自分のすてきなとさかを輝かせながら、軽くおじぎをして去っていきました。ハナは言いました。「コッコ君のとさか。とてもすてき。どうやったら振り向いてくれるブヒー」

 ハナは一晩中考えました。胸をときめかせながら。そして、とうとう思いついたのです。「そうだブヒー。私にもコッコ君のような特微を作るブヒ。私といえば…。花、花のアクセサリーを身につけるブヒー」とはりきりながらハナは言いました。

 次の日。花畑に行ったハナは、「どの花にしようかなブヒー」。たくさん咲いている花に迷っていました。その中で、一番輝いていたのはバラでした。バラの花言葉は『愛』です。「これに決めたブヒ」。ハナは言いました。ハナはバラを耳につけて走りだしました。そしてコッコ君のところに着くと叫びました。

 「コッコ君のことが…」まで言いかけると、コッコ君はスマホを手にして、誰かと話しているみたいです。あわてて電話をきったコッコ君の前にハナは出てきて言いました。「好きブヒー」。バラの香りのする沈黙が流れました。「ごめん。僕の妻の卵が今にもかえりそうなんだ」。そう早口で言うと、コッコ君はバサバサ走って行ってしまいました。

 ハナの心は痛み、心の花は散っていました。切ない涙を流しながらハナは走って走って、お気に入りスポットの湖に来ました。水面に映っている自分の顔を見ながらため息をついていると、別のところでも「ハァー」というため息をついているイノシシがいました。

 「あなたはどうしてため息をついているブヒ?」とハナ。「僕は、たくさんの女の子達に振られたフガー」とイノシシの力男は悲しげな声で答えました。話を聞いていると2匹の悩みは同じでした。気持ちが楽になった2匹は元気を取り戻し、それぞれの恋に向かって走り出しました。

 しばらくして、ハナはきこりの杉田君に恋をしました。クールな性格の杉田君は、ハナの告白にあっさり、「僕は人間だから無理です」と言いました。振られたハナは、泣きながら走り出しました。夕日が涙ににじみ、誰かとぶつかりました。それは力男でした。

 「また振られたフガー」とため息をつく力男。「私もブヒー」と涙をこらえながらハナが言ったとき、目をあわせた2匹の心に、キュンとする何かが芽生えました。2匹は「ブフッ」と笑うと、ハナと力男は並んで、夕日に向かって走り出しました。2匹の恋の物語を…。

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 おはなしボランティアきいちご、中村有里審査員…作品のイメージが身近にいる中学生の姿に重なりました。ハナの恋はどうなるのと心配しましたが、力男にキュンとする場面に中学生らしい等身大の恋心を感じ、青春っていいなと思いました。

(ニュース和歌山/2019年2月16日更新)