世代交代しながら10年以上

 病気で中途失明した和歌山市職員の山﨑浩敬さん(59)は10年以上、小学生に助けられながらバス通勤を続けている。始めた児童が卒業した後も後輩、その後輩へと受け継がれ、山﨑さんは「ドアの位置が分からずもたつくことや、車内アナウンスを聞き逃さないよう緊張する場面も、率先し助けてくれます」と笑顔を見せる。

 32歳だった1994年、進行性の難病、網膜色素変性症を患い、40歳手前で両目の視力を失った。休職し、訓練施設で白杖の使い方を学んだ後、2006年に復職。バス通勤を始めた当初は小学生の息子が付き添っていたが、卒業後の08年からは一人で通った。

 乗降時に苦労し、迷惑をかけているのではと不安を覚えていたある時、「階段はここだよ」と女の子の声がし、小さな手がそっと背中に触れた。同じ停留所から乗る和歌山大学附属小学校の児童だ。以来、この児童が卒業した後は、別の児童がサポートをしてきた。乗降を手伝う子とは別の児童が「ここの席が空いてるよ」と確保してくれることもあった。

 新型コロナウイルスの感染が落ち着いた今秋、通勤、通学時間がそろった山﨑さんと児童は1年半ぶりに顔を合わせた。現在、サポートする一人、3年の児童は「幼稚園の時、私のお姉ちゃんが山﨑さんを助ける姿を見て、自分もしたいと始めました。バスを待つ間の会話が楽しく、最近は運動会や奥山祭りについて話しました」とにっこり。

 この出来事をまとめた山﨑さんの作文「あたたかな小さい手のリレー」は昨年、「小さな助け合い」をテーマにしたコンクールで最高賞に選ばれた。この話を題材にした絵本の製作を、東京の出版社が進めている。

 本来、視覚障害者を介助する際、背中を押すのは間違いだが、山﨑さんは「何も分からない中、人に褒められるためでなく、苦労している人を見て自分にできることをしてくれた勇気がうれしい。いろんな場面で困ったり悩んだりしている人へ自然に手を差し伸べられる人が増えれば」と望んでいる。

写真=バスに乗り込む山﨑さんと、手を添える児童たち

(ニュース和歌山/2021年11月6日更新)