ある小屋に一ぴきの大きなニワトリがいました。ニワトリは今、がんばっています。なぜかというとニワトリはタマゴを産んでいる最中だからです。

 ニワトリは、けわしい表情をしながらふんばっています。「ヒー、ヒー、フー」。それでもタマゴは出てきません。「ヒー、ヒー、フー!」。タマゴが少し出てきました。ニワトリは必死です。もう少しで出てきそうです。さらにニワトリは力強くふんばります。すると、ポン!と勢い良い音がなり、タマゴはついに出てきました。出産は無事成功したのです。ニワトリは感動で涙が止まりません。

 小屋の近くにいた飼い主のオジさんがニワトリの出産に気づきました。「ついに、生まれたのか!」。オジさんもうれしそうです。「これで店に売れるぞ」

 そのオジさんの言葉にニワトリはおどろきます。自分の産んだ子どもが店に売られてしまう事を知らなかったからです。ニワトリはタマゴをかえせと大声でコケーッと叫びます。しかし飼い主はもういません。遠くを見るととてつもなく速いスピードで走る自転車を見つけました。前かごにはタマゴが入っています。オジさんです。彼は、さっそくタマゴを売るため店に向かっていたのです。彼はうれしそうです。

 ニワトリはピンチになったので仲間に助けを求めます。コケーッと叫ぶとたくさんのニワトリ達がやってきました。「あのオジさんからタマゴをうばいかえすぞ」。ニワトリ達は一致団結してオジさんを追います。オジさんはおどろきます。後ろにたくさんのニワトリ達がせまっているからです。

 「な、なんだい、これはー!?」。オジさんはフルスピードを出してニワトリ達からはなれようとします。ニワトリ達も自転車並みのスピードでせまってきます。その場にいた村人達もその光景におどろきです。

 オジさんはタマゴを売る店を探します。見つけました。しかし後ろにせまるニワトリ達が邪魔で店に入ろうにも入ることができません。その店はあきらめました。ちがう店を探します。後ろにせまるニワトリ達がさらにせまってきます。オジさんは坂道や曲がり角などを使い、ニワトリ達をまこうとします。

 そして、ついにオジさんはニワトリをまくことに成功しました。さらにタマゴを売ることができる別の店を発見しました。「やったぞ! ついに見つけた!」。オジさんよろこびます。店の手前で自転車を放り投げ、タマゴを持ち、店にとびこみます。

 オジさんは、店のオジさんにタマゴを売りにきたと伝えます。店のオジさんはオジさんの持ってきたタマゴを見てこう言いました。「タマゴ1個じゃ店には売れないよ」。そのオジさんの言葉にオジさんはおどろきます。タマゴを売るには1パック10個入りでなければ売ることができなかったのです。

 タマゴは無事売られることなく、ニワトリのもとへ戻ってきました。

(創作童話コンクール佳作)

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児童文学作家、嘉成晴香審査員…審査会で、「短編アニメにしたいよね」と盛り上がった作品です。ニワトリの親心と身勝手な人間の事情がコミカルに描かれていて、一気に読ませてくれます。最後はどうなるかとヒヤヒヤしましたが、タマゴが助かってよかった。
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「今年の干支とりが主役の創作童話コンクール」の入賞作品紹介は今回で終了します。

(ニュース和歌山より。2017年2月18日更新)