今回の疑問は、和歌山市の山の上のお姉ちゃんから届いた「親に『紀の川で拾ってきた子』と言われたことがあるが、なぜそんなことを言うの?」です。

 小さいころ、親に川や橋の下で拾ってきたと冗談を言われた経験はありませんか? 実はこの言い習わし、各地の川や橋で言い換えられています。和歌山では紀の川と言われることも…。その歴史や理由を、民俗学を研究する県立紀伊風土記の丘の蘇理剛志学芸員に聞きました。

 


 

「拾い親」の風習が言葉に残った

 「なぜ親は『紀の川で拾ってきた』と言うの?」。県立紀伊風土記の丘の蘇理剛志学芸員に聞くと、昔の紀の川は暴れ川で水害が多く、仏やご神体も流されました。これらは下流で拾われ、その地域でまつられました。「流れてきたものを拾い、大事にする風習が紀の川沿いに暮らす人々にありました」

 また、昔から日本では「拾い親」「子捨て」という風習があり、泉佐野市や熊取町では戦前まで残っていました。母親が厄年で産んだ子どもは「厄をもらった子」と言われ、厄落としの儀式をする必要がありました。生まれた子を三差路に置き、捨てるまねをして、あらかじめ頼んでおいた人に拾ってもらいます。8代将軍徳川吉宗もそうされたと『南紀徳川史』に記録が残っています。

 この言い習わしを研究した精神科医の武内徹さんは、著書『お前はうちの子ではない 橋の下から拾ってきた子だ』の中で、「拾い親」は親の悪い条件が子に影響するのを恐れて、仮に親子の縁を切るまじないで、「この『習俗』がいつの間にかこの『言い習わし』に変化していったのでは」と記しています。

 親から「拾ってきた子」と言われると子どもながらにショックですが、産んだ子の健全な成長を祈るための風習の名残だったと知れば、感慨深いですね。

(ニュース和歌山/2020年2月1日更新)