ほんのりとした酒の香りにほどよいこし餡(あん)の甘みがどこか懐かしい「本ノ字饅頭」。令和3年、創業560年を迎えた「総本家駿河屋善右衛門」が江戸時代から受け継ぐ、和歌山を代表する和菓子です。今も色あせず、故郷を感じさせる地元の味を紹介する「和歌山味物語」。今回は、岡本良太社長にお話をうかがいました。

 

創業は室町時代 紀州藩とともに

 京都伏見で、初代・岡本善右衛門が「鶴屋」の名で饅頭処を始めたのがルーツです。駿河屋の蒸羊羹(ようかん)は、豊臣秀吉の茶会に用いられ絶賛を受け、その名前は全国に轟きました。

 5代目、6代目で、てんぐさ、寒天と素材を変え、煉羊羹の大元を作り上げました。23代目となる岡本社長は「代々の岡本家当主は羊羹の開発に熱心でした」。

 江戸時代、鶴屋は徳川頼宣の紀州入りに伴い、駿河町に店を構えます。1685年に「駿河屋」を名乗りました。紀州藩の「御菓子司」として栄えた様子は当時の「紀伊国名所図会」でもうかがえます。

 

 

 

 

 

 

▲「紀伊国名所図会」に描かれた江戸時代の駿河屋 「城下町の風景Ⅱ」(額田雅裕編、芝田浩子彩色、ニュース和歌山発行)より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶に残る懐かしい味

 歴代藩主が参勤交代の際、江戸へ持参したのが本ノ字饅頭です。

▲昔ながらのせいろで蒸して作る。できるまで4日を要する

 「本」の字の焼き印が特徴的です。諸説ありますが、「紀州藩の教訓状、父母状にある『正直は本(もと)なり』から来ているのが一番有力です」。

 もち米と麹を混ぜ発酵させた生地に、小麦粉を加え、飴を包んで寝かせ、せいろで蒸す。発酵、二次発酵と仕上がるまで4日を要します。「昔ながらの天然酵母を使うため、生地を蒸し上げないと何個作れるか分かりません」。多くて1500個、少ない時は800個の日もあり、売り切れる日も。このため日持ちする「金の本ノ字饅頭」も開発。風味はやや異なりますが、土産品として好評です。

 東京の物産展でも和歌山出身者から必ず声がかかる故郷の味。「仏壇の本ノ字饅頭をおばあちゃんが火鉢であぶり食べさせてくれた…など懐かしがってくれます。皆さんの記憶に残る味。途絶えさせず、守り続けたい」と心を込めます。

 

総本家駿河屋善右衛門

【駿河町本舗】 和歌山市駿河町12
9:00~18:00 無休(臨時休業あり)/電話 073-431-3411
【本社工場小倉店】 和歌山市小倉25
9:00~18:00 無休(臨時休業あり)/電話 073-488-1187
(支店/六十谷店、岩出店、近鉄和歌山店、オークワ本社店、貴志川店、高松店、海南店、伏見本舗、御坊店、鶴屋善右衛門オークワ六十谷店)

(ニュース和歌山PLUS81号/2021年12月24日発行)