文化財盗難の現状と対策の最前線にふれてもらう企画展「防ごう!文化財の盗難被害」がきょう11日(土)から和歌山市吹上の県立博物館で開かれる。実際盗難に遭った仏像など約50点を並べ、地域の歴史を担う文化財の大切さを訴える。7月10日(日)まで。

 和歌山県内では2010年から11年春にかけ、無住寺院や堂などを狙った連続窃盗事件が発生、被害届は60件(仏像172体、仏具など90点)にのぼった。人口減や過疎化により、堂やほこらを管理する担い手が減ったのが大きく、全国的にも例のない被害規模となった。

 文化財の盗難は毎年数件起きており、今春も紀の川市の知足院にある市指定文化財、天部形立像が盗まれた。同館の大河内智之学芸員は「盗難が起きる状況は大きく変わっておらず、今すぐにでも新たな被害を防ぐ対策が必要」と強調する。

 今展では、紀の川市の中津川行者堂蔵の本尊など一度盗難に160611_hakubutukan遭い、その後の追跡で取り戻すことに成功した仏像を展示。一方、仏像は取り戻したが照合できる記録がないため、所蔵者が把握できない仏像、仏具40点を並べ、地元で記録することの大切さをアピールする。

 また、県独自の盗難対策として近年進むレプリカ像の安置を紹介。無住寺院や堂の仏像を県立博物館で預かり、その代わりに、和歌山工業高校の生徒が3Dプリンターで製作したレプリカを「お身代わり」として置くもので、これまで県内7ヵ所で実施。このうち紀の川市の円福寺にある愛染明王立像の実物とレプリカを並べる。「文化財と信仰の場をともに維持する最先端の取り組みです」と大河内学芸員。このほか、文化財が地域の歴史を伝える例と言える重要文化財級の仏像5点を見せる。

 特別陳列として「初公開・粉河寺の千手観音立像」を実施。粉河寺本堂の後戸に安置されていた平安時代の千手観音立像を初公開し、粉河寺に関連する仏像、太刀5点を展示する。

 午前9時半~午後5時。280円、大学生170円、高校生以下と65歳以上無料。月曜休館。同館(073・436・8670)。

(2016年6月11日号掲載)