過疎化が進む海南市下津町塩津の塩津漁港で、移住者の阿部立利さん(53)が牡蠣(かき)の養殖によるまちおこしに挑戦している。11月23日には、新鮮な牡蠣を味わえる「港の牡蠣小屋」を漁港にオープンした。「下津のブランド牡蠣をつくり、次の世代につなげたい」と力強い。

移住者 阿部立利さんが養殖

 マリーナシティの対岸にあり、港を囲むように民家が並ぶ風情ある漁師町、塩津。しらす漁が中心だったが、高齢化や人口流出で、30~40年前のピーク時に30軒以上あった漁家は6軒に減った。

 大阪出身の阿部さんは水中で溶接作業をする潜水士。沖縄でダイビングショップを経営しながら、冬場に沖合漁の漁師を17年間した。5年前、下津町出身の友人に誘われ、塩津に移住。初めは他県に水揚げする沖合漁をしていたが、「塩津の港に活気をつくらないと未来はない」と、港を拠点にした新事業を考える中、岸壁にこびりつく天然の牡蠣に目がとまった。

 2年前から水質や水温のデータを取り、広島や宮城、大分と産地を渡り歩き、独学で研究。7月に過疎地域の課題に取り組む地域おこし協力隊が2人派遣され、事業化に弾みがついた。はえ縄といかだを設置し、仕入れた種を場所や方法を変えては試しながら、市場に出せるまでに育てた。

 「エサになるプランクトンを含んだ川が近くにたくさんあり、東北に比べて成長が早い」と阿部さん。卵を産んだことのない小ぶりのバージンオイスターを収穫しており、阿部さんによると「くさみがなく、ミルキーで甘い」のが特徴だ。小屋で販売するほか、飲食店や旅館へ出荷する。

 18歳から塩津で漁師をする海南市漁業協同組合の寺脇寛治組合長(71)も養殖に乗り出しており、「手間はかかるが、定年退職した住民や協力隊の若い子が来てくれ、仕事が楽しい。成功して他港のモデルになれば」と話す。協力隊の井川翔太さん(25)は「3年で任期は終わるけれど、いつか組合に入り、養殖を主に塩津でやっていけたら」と瞳を輝かせている。

 牡蠣小屋は午前10時~午後3時、土日祝のみ営業。無くなり次第終了。立征水産(ryuseisuisan@gmail.com)。

写真=寒空の下、養殖に励む阿部さん(右)と井川さん

(ニュース和歌山/2018年12月8日更新)