平安時代が起源とされる海南市の芸能、藤白の獅子舞。伝統を受け継ぐ保存会が新メンバーを募っている。一昨年、日本遺産に選ばれた「絶景の宝庫 和歌の浦」の構成文化財で、鈴木姓のルーツと言われる藤白神社境内の鈴木屋敷が2年後に復元される予定であるのを受け、北方英司会長(46)は「周りが盛り上がっている中、会員を増やし、最近10年は行われていない2頭舞を復活させたい」。平安の舞を令和へとつなぐ。

藤白の獅子舞保存会 2頭舞復活に向け会員募集

 春、うららかな日差しを受け、眠ってしまった獅子。そこへ天狗の面を付けた神様、猿田彦命が現れる。驚いた獅子は猿田彦命が持つ巻物を取ろうと暴れ、それを猿田彦命は剣で振り払い──。そんな様子を演じるのが、藤白の獅子舞だ。

 保存会会員の南村英輝さん(47)は「獅子舞と言えば頭(かしら)は赤が多いですが、藤白は金色で目を引く。獅子が退治されてしまうのではなく、獅子と猿田彦命が仲良くたわむれているのも魅力ですね」。

 平安時代、熊野へ向かう途中に立ち寄った上皇や貴族に披露した里神楽が起源とされる。今は、藤白神社で元日に行われる初舞、10月第2日曜の秋祭りのほか、地域の内海小学校や文化祭、また結婚式など依頼を受けて出張演舞を行う。

 藤白神社のある内海地区の若者が担ってきた舞は1966年、県無形民俗文化財に指定され、この年に発足した保存会が受け継いだ。会員が減少してきた2012年には初めて地域外にも呼びかけ、12人が加わった。その一人で、獅子の頭と天狗を担当する石橋辰倫さん(36)は「獅子の中に入るのは5人。息を合わせ、一つの生き物のように見せられるよう気を配ります」。唯一の女性で、和歌山市に住む須山恵里さん(31)は「地域で大事にしてきた芸能だとの話を地元の人に聞かせてもらった。伝統ある獅子舞に、地区外の私も参加できるのは光栄」と喜ぶ。

 舞うには、獅子役5人のほか、天狗、笛、太鼓が各1人と計8人が必要だ。現在、会員は11人いるものの、それぞれ仕事を持っており、8人がそろわないことも。北方会長は「平日の出演依頼もある。安定して出張演舞に対応するため、20人ほどほしい。40代後半以上が4人おり、世代交代も必要」と話す。

 ここ10年、メンバー不足でできていない2頭舞を復活させたいとの思いも強い。活動歴26年の佐野建也さん(45)は、現メンバーで唯一、2頭舞の経験を持つ。「5人が入る獅子が2頭ですから、舞のスケールが大きくなり、見栄えしますね」

 北方会長は「先輩方は1970年の大阪万博で舞を披露したので、2025年の大阪万博で、また来年の東京五輪の開会式でもできれば」と思い描く。藤白神社責任役員総代長の平岡溥己さん(82)は「伝統を守ろうと活動する若い人たちの思いはありがたい。鈴木屋敷も復元へ順調に進んでいるので、完成した際にはぜひ披露してほしい」と期待している。

 性別、地域は問わない。北方会長(073・482・5065)。なお、直近では5月1日㊌午前10時から海南市重根西のとれたて広場、26日㊐午前9時半から、リレー・フォー・ライフが開かれる和歌山城砂の丸広場で披露する。

写真=今年の年明け早々に披露された獅子舞。初もうでに来た多くの人が見守る(保存会提供)

(ニュース和歌山/2019年4月27日更新)