魅せる円熟の技 衰え知らぬ情熱

 60歳以上を中心にスポーツや文化活動で交流する全国健康福祉祭「ねんりんピック」が11月9日㊏~12日㊋、和歌山県内で初開催される。ニュース和歌山配布地域では卓球、テニス、ソフトボールなど9競技を実施。全国1万人が参加する大会、県内629人のうち、注目4人にスポットを当てる。

 

50の手習いで日本記録7つ〜水泳 桑山菅子さん(95)

 これまで樹立した日本記録は7種目。大正生まれ、95歳のスイマーが県内最高齢選手として水泳25㍍自由形に出場する。「自由形ですが、クロールより速く泳げる背泳ぎで挑戦します。最後まで力いっぱい泳ぎきりたい」と力を込める。

 練習は週2回。若いころは体力に任せて長い距離を泳いだが、手のかき方、足の動かし方など動作を一つずつ確認し、30分かけてゆっくり600㍍泳ぐことに面白さを見いだしている。

 水泳を始めたのは52歳。20歳から連れ添った夫を亡くしたのがきっかけだった。「お悔やみを言われるのがつらく、数年間、家でふさぎ込んでいたら太ってきて…。見かねた友達が誘ってくれたんです」。もともと運動好きで、すぐにのめり込んだ。友達ができ、タイムが伸びるのが楽しく、全国各地で行われる大会で経験を積んだ。

 初めて日本記録を出したのは1998年、75歳だった。75~79歳の部、バタフライ50㍍と自由形200㍍で達成した。以来、様々な大会に招かれ、2008年には日本スイミングクラブ協会のベストスイマーに選ばれた。

 87歳、せき柱管狭さく症の手術を受けた際は、医師から後遺症が残る可能性があると告げられ、泳げなくなると覚悟した。術後、歩行トレーニングのためプールに入ったところ、歩くより泳ぐ方が楽で、もう一度挑戦する気持ちが芽生えた。

 昨年の秋葉山マスターズ大会では、95~99歳背泳ぎの50㍍で1分18秒41、100㍍で2分51秒91と2種目で日本記録を打ち立てた。今年9月には長年の功績が認められ、日本スポーツ協会のスポーツグランプリに輝いた。

 体力維持のため、毎日の柔軟体操と、朝夕50回ずつのかかと落としトレーニングは欠かさない。「すしではうなぎの握りが好きで、日本酒も少しだけど毎晩飲みます」と健康の秘けつを語る。

 「『桑山さんが元気に泳いでいるから、私もまだまだ頑張ります』と言ってもらえるのがうれしい。私もちょっとは役に立ってるのかな」。記録を更新し続ける鉄人は照れ笑いを見せた。

 

〝対戦相手は先生〟 昔も今も〜剣道 重黒木哲郎さん(71)

 「人生を教えてくれた師」と語る剣道と共に歩んで60年以上。「選手としては地元でのねんりんピックが最後の大会になると思います。5人による団体戦、みんなで優勝をつかみたい」。竹刀を振る手に力を込める。

 出身は宮崎県。小学4年で剣道を始め、国士舘大学を経て、1970年に高校の教員として和歌山へ来た。翌年の黒潮国体は和歌山県成年男子チームの一員として優勝に貢献。2015年の紀の国わかやま国体は県成年女子チーム監督を務め、頂点へと導いた。「地元での国体、2度も優勝でき、こんな光栄なことはありません」

 剣道から離れた時期もある。1999年、心筋こうそくになった。「心臓が削られるような感覚に襲われ、医者からは『すぐに家族全員呼んでください』と言われました」。幸い、心臓バイパス手術は成功。その後、後進の指導、自らの稽古に復帰し、今は週4日の練習を欠かさない。

 昔から70歳を超えた今も変わらず、対戦する相手は自分に足りない部分を教えてくれる〝先生〟だと考える。「自分より年上であろうと年下であろうと同じです。指導している高校生であっても、あっと思うところを打たれることがありますから」

 ねんりんピックまであと1週間。「今回も全国から集まった多くの方に、いろんな剣道を見せてもらい、いろいろと勉強できるいい機会ですね」。向上心は衰えを知らない。

 

仲間と演舞 ねらうは頂点〜太極拳 前田眞千子さん(68)

 「中国の公園で早朝に大勢の人たちが音楽に合わせてゆっくり動いている…、始める前はそんなイメージだけでした」。予備知識ほぼゼロから始めた太極拳は今年で17年目。ねんりんピックは7度目になる。

 健康のため、年を取ってからでも続けられる、激しくない運動を探していたときに浮かんだのが太極拳だった。始めてみると想像以上に難しく、「最初は手足がバラバラに動き、まるで自分の体じゃないみたいでした」。

 ゆっくりとした動作で足腰を鍛える。次第に姿勢が良くなり、体幹が安定してきた。「年齢と共に筋力は落ちますが、そのスピードを緩められる。無理せず続けられますので、おすすめですよ」

 現在は和歌山市の太極拳チーム「シルク・ド・WAKAYAMA」で活動。大会では6~7人で隊列を組み、全員の動きと呼吸を合わせて演技を行い、その美しさを競う。仲間との協調性が重要で、大会前には週4回の練習で息を合わせる。イベントに呼ばれて披露することも多く、「大勢の前で演舞するのがとても楽しい。太極拳は自分をより明るく、アクティブな性格にしてくれました」。

 昨年のねんりんピックでは、他の全国大会を含め、自己最高の7位に入った。「競技時間はわずか4分。今年はその短い間に、17年間の全てを込めます」。人生を豊かにしてくれた仲間たちと共に優勝をねらう。

 

経験からの勝負勘生かし〜健康マージャン 流川壽雄さん(90)

 マージャンは70年来の趣味。今も週2回、地域の集会所で仲間と対局する。「指先を使うし、局面が常に変化するので、ずっと神経を使わないといけない。ひらめきが必要で、脳にいいですよ」と笑う。

 海軍兵学校在校中に終戦を迎え、大学卒業後は当時の農林省で職務についた。仕事に励む中、マージャンと出合い、同僚と卓を囲んだ。高校教諭、県職員と職は変わり、多忙な生活を送るかたわら、趣味として続けた。

 「勝つのは運が大きい」と笑いつつも、「マージャンは数字の組み合わせ、いわゆる確率。場や捨て牌からいかに相手の手を読むか」。しかし、何よりも勝ちに必要なのは経験に培われた〝勝負勘〟という。

 昨年、知人からねんりんピックの競技に健康マージャンがあると聞き、県予選に挑戦。初出場ながら優勝し、代表4人の1人に選ばれた。県選手団最高齢として富山でのねんりんピックに出場。「仲間でするのと違い、初めて会う人ばかりと対局。中にはプロ級の人もおり、終始張り詰めていました」

 心に残るのは、ホスト県、富山の選手や職員の心遣い。「今回は全国から和歌山に来てもらうのだから、いい気持ちで帰ってもらえるよう、おもてなしの心で迎えたい」と思いやりも忘れない。自身については「出るからには優勝を目指す。勝負は勝たないと意味がないですから」。勝負師の目がキラッと輝いた。

 

ニュース和歌山配布地域で行われる競技

【和歌山市】水泳=秋葉山公園県民水泳場▽卓球=ビッグウエーブ▽テニス=つつじが丘テニスコート▽ゲートボール=紀三井寺公園陸上競技場・補助競技場
【海南市】太極拳=総合体育館▽囲碁=海南保健福祉センター
【岩出市】ペタンク=若もの広場
【紀の川市】ソフトボール=貴志川スポーツ公園、打田若もの広場、粉河運動場
【紀美野町】パークゴルフ=のかみふれあい公園
 いずれも観戦無料。日時など詳細はねんりんピックHP、または実行委(073・441・2570)。

 

ビッグホエールで関連フェスタ

 ねんりんピック期間中の11月9日㊏〜11日㊊、「わかやまねんりんフェスタ」が和歌山市手平のビッグホエールで開かれる。主な内容は次の通り。

 【ステージイベント】
◎お口にいいことセミナー=9日午後1時。医師の浦長瀬昌宏(あつひろ)さんが「かむ力・飲み込む力アップで元気に」、元五輪選手の荻原健司さんが「トップアスリートの体と歯の健康法」と題して話す
◎お笑いステージ=9日正午と午後3時半から、かつみ♡さゆり、わんだーらんど、10日午後3時半からライス、きみどりが出演
◎ファッションショー=10日正午。シニア世代のモデルが登場。タレントの小西博之さん、モデルの本谷紗己さんのトークも。

 【わかやま健康と食のフェスタ】
 和歌山産の食材を使った簡単レシピ紹介、野菜クイズ、栄養士や薬剤師による相談など。

 【ふれあいニュースポーツ】
 氷の上でなく、カーペットの上で行う「スティックカーリング」、ディスクを投げて9枚の的を抜く「ディスゲッター」など6種目を体験できる。

 健康と食のフェスタやニュースポーツは午前10時〜午後5時(最終日4時)。詳細はねんりんピックHP、または実行委(073・441・2570)。

(ニュース和歌山/2019年11月2日更新)