少子高齢化が進み、またAIの導入が進みはじめようとする現代、未来を担う子どもたちへの教育は次の時代の礎となります。社会が複雑化し、求められる力が多様化する中、和歌山県として、どこに焦点を当て、どのような教育を行っていくのか。宮﨑泉(みやざき いずみ、写真1枚目)和歌山県教育長に髙垣善信(たかがき よしのぶ、同2枚目)ニュース和歌山主筆が聞きました。

地域を支え世界へ羽ばたける子どもを

髙垣主筆(以下、髙垣) 今年4月に新たに教育長に就任されました。就任後、新元号のもと、「和歌山らしい教育」を掲げていらっしゃいます。教育長の考える和歌山らしい教育とは何でしょうか。また目指すべき人間像も含め、方針、意気込みをお聞かせください。

宮﨑教育長(以下、宮﨑) 和歌山に残りたいと思う子どもが和歌山に残れるようにする教育、また、広い世界で活躍したいと思う子どもが和歌山から羽ばたけるようにする教育が必要だと私は考えています。そのためには、社会の役に立つ子どもを育てることが大切です。子どもたちは、幼い頃から地域社会と関わり、地域の役割を担う中で、人の役に立つ経験を積み、自尊感情を育んでいきます。こうした積み重ねが、地域を大切にする子どもを育てることにも繋がると考えています。

 

教員のスキルアップ後押し

髙垣 「学力向上」をはじめ、「ICT(情報通信技術)教育」「ふるさと教育」「キャリア教育」「グローバル人材の育成」など子どもたちがもつ様々な能力や可能性の伸長を図ろうとしています。いずれも重要ですが、今後力を入れていきたい取り組みを教えてください。

宮﨑 和歌山県の教員は、実力と魅力を備えた存在であってほしいと思っています。そのためには、教員が常に資質向上を心がけることが重要だと考えています。

 資質向上には研修が大切ですが、多くの先生が研修センター等に集まる研修だけでなく、気軽にできる負担の少ない研修を、日頃から行える環境も大事です。ですから、自主的な教科研究活動の活性化など、教員が日頃からスキルアップに取り組める仕組みづくりに力を入れていきたいと思います。

写真=自らプログラミングしたロボットを動かす子どもたち(きのくにICT教育)

 

働き方改革を効果的に推進

髙垣 教員に余裕がなければ、充実した教育ができないとの社会的なコンセンサスができてきています。県教委でも「教員の働き方改革」を掲げておられますが、方向性、今後の取り組みをお話しください。

宮﨑 先生には、心にゆとりをもって、じっくりと子どもたちと向き合ってもらいたい。そのためには、削れるところは思い切って削って、子どもたちと過ごす時間を大事にしてほしいと思っています。

 働き方改革を効果的に進めるため、私自身、何度か若手の教員と座談会をもち、若い先生方の思いや悩みを聞いています。先生方は何に忙しく、どんなことにやりがいを感じるかなど生の声を聞いていますので、これからの施策に生かしていきたいと思います。

写真=若手教員との座談会の様子

 

地域 家庭と連携を〜いじめ・不登校相談体制の充実

髙垣 地方では、地域ぐるみで教育に取り組んでこそ、その風土の豊かさが生きてくるように思います。学校、家庭、地域で子どもたちの教育環境の質を上げるきのくにコミュニティスクールが今年度で全ての県内公立学校に導入されます。手応えはいかがですか?

宮﨑 地域を巻き込むことは、家庭教育を促すことに繋がります。授業が始まっても席に着けない小学1年生がいるという話を聞きますが、その対応を学校だけが担うのではなく、家庭と一緒になって考えていきたいと思っています。

 また、コミュニティ・スクールによって、昔のような地域による見守りの場を意図的につくることができますし、学校運営方針の決定も、家庭や地域から様々な意見をいただいた方がうまくいきます。きのくにコミュニティスクールには手応えを感じています。

 

髙垣 さて、不登校、いじめが長年、重い課題としてのしかかっています。今年度もいじめの解消率は全国1位でしたが、認知件数が増加しています。また不登校の生徒も高校で減少するものの、やはり小中学校で増加が見られます。今後の方向性と取り組みを教えてください。

宮﨑 ご指摘のとおり、認知件数は増加し、解消率は全国1位でした。これは、各学校でアンテナを高くし、小さないじめも見逃さず、早期対応できたことによるものと考えています。今年7月にはLINEによる相談窓口を開設するなど、子どもたちがより相談しやすいように、さまざまな相談窓口を設けています。不登校についても、まだまだ道半ばですが、相談体制の充実を図るとともに、児童生徒が学校の学習にスムーズに復帰するため、また、自信をもって進路選択できる学力を身に付けるため、ICT機器を活用した学習支援を始めています。

写真=地域の方々と、地元食材を使った弁当づくりで交流(きのくにコミュニティスクール)

 

安全で安心な学習環境づくり

髙垣 2年後の2021年には和歌山で『第45回全国高等学校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)』が開かれます。大会の内容を教えてください。また、これから大会に向けどういう準備を進め、どんな大会を目指しますか。

宮﨑 この大会は、令和3年7月31日から8月6日の7日間、全国2万人の文化部活動に取り組む高校生が和歌山に集い、計22部門で日頃の練習の成果を披露する、全国最大の高校生の文化の祭典です。

 今年6月に実行委員会を立ち上げるとともに、7月には大会の企画運営に携わる生徒による第1回生徒企画委員会を開催し、本格的な準備をスタートさせました。この大会では、大会を作り上げる過程で生徒たちが大いに成長すること、また、この大会の成功を契機として、今後様々な文化活動がますます盛んになることを期待しています。

髙垣 今年は令和4年までの和歌山県教育振興基本計画の2年目の年にあたります。今後の教育行政を牽引するお立場としてのモットーもしくは抱負を最後にお聞かせください。

宮﨑 子どもたちが安心安全に学習できる環境づくり、先生方がやりがいをもって楽しく働ける環境づくりなど、すべきことはまだまだあると思っています。

 また、子どもたちの成長には、家庭や地域の高い教育力が不可欠です。社会全体で子どもたちを育てていくため、率先してその旗ふり役を務めたいとも思っています。

髙垣 本日はありがとうございました。

写真=「第45回全国高等学校総合文化祭(紀の国わかやま総文2021)」に向け、生徒企画委員会で話し合う高校生

(ニュース和歌山/2019年12月21日更新)