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 軽トラックに商品を積み、地域に出向く移動スーパー。外出が難しい高齢者の増加と、過疎化によるスーパーや個人商店の撤退で需要が高まる一方、固定店舗より販売効率が悪く、店外で販売するノウハウがないために今ひとつ広がらない。こんな中、高齢者の生活支援や見守り活動を加えたサービスで、事業を軌道に乗せようとする試みが和歌山市と日高地方で始まっている。2つの現場を追った。

 和歌山市加太の住宅地。毎週火曜午後3時前に、移動スーパー「わかヤン」が現れると、生鮮食品や日用品など約300品目を積み込んだ軽トラを地域のお年寄りらが取り囲む。

 「お荷物運びましょうか?」。買い物を終えた客に声を掛けるのは井上和彦社長(57)。2年前に33年間勤めた地元スーパーを退職し、介護業界へ。買い物に出かけられないお年寄りと接する中で、毎日の暮らしにもっとメリハリをつけてもらおうと今年6月にわかヤン本舗を立ち上げた。

 特徴は、販売員全員が介護関連の資格を持っていること。販売を意味する「セールス」と介護の「ヘルパー」を組み合わせ、独自に考え出したスタッフ「セルパー」が接客する。「商品を売るだけでなく、介護の資格を持っていれば、定期的に会うお客さんの顔色や体調の変化に気付くことができます」と井上社長。

 セルパーは客の自宅まで購入した商品を運ぶ。道中も路面に注意して足元への気配りを欠かさない。利用する加納秋子さん(87)は「腕が痛いので運んでもらえると助かる。健康や身の回りの安全にも気遣ってくれて安心できます」と喜ぶ。

 別の日は松江中の山﨑清江さん(87)、宮川健さん(69)姉弟の自宅へ。ほぼ寝たきりの2人の側に商品を運び、身体を起こして買い物をしてもらう。宮川さんは「身体が動く時は窓際まで介添えしてくれて、窓からトラックに並ぶ商品を選びました。買い物が楽しみで、来てくれる日が待ち遠しい」と笑顔を見せる。

 商品はスーパー「サンワ」で仕入れ、店頭価格の約1割増しで販売。井上社長は「効率は良くないですが、社会で必要とされるサービス。ゆくゆくは生活の困りごとにも対応し、社会的弱者の暮らしを支えたい」と描く。

 一方、日高郡や御坊市を中心に展開するJA紀州は9月、見守り活動を兼ねた移動スーパーを始めた。徳島市の移動スーパー、とくし丸と提携し、農協が運営するスーパー「Aコープ」の商品を店頭より10円増しで販売。とくし丸は見守り活動も兼ねた事業だが、JA紀州は管内の市町と協定を結び、訪問先で異変を感じた場合、地域の民生委員や警察、医療機関などと連携し、きめ細かに対応する。

 事業開始から約1ヵ月でトラック1台当たりの1日の売り上げは、事業継続の境目となる6万5000円を上回る8~9万円と上々の滑り出し。JA紀州は「特に沿岸部や山間地域はスーパーが閉まり、個人商店主の高齢化が著しい。独居世帯が多く孤独死などのリスクがあるため、サービスを利用してもらい、予防につなげたい」と話す。

 付加価値のついた移動スーパーの登場に、県長寿社会課は「一人暮らしの65歳以上は県内で6万人を超える。身体や安否について意識してかかわる人がいることは高齢者にとって心強い。商品だけでなく安心も届けられるサービスとして良いビジネスモデルになるのでは」とみている。

 わかヤンは和歌山市北部を中心に訪問する。同社(073・453・1234)。

写真=ベッドの側に商品を並べる井上社長(右)
(ニュース和歌山2015年10月31日号掲載)