子どもの貧困率(※)が16・3%と過去最悪を更新し社会問題となる中、和歌山でも子どもたちを地域で支える取り組みが始まっている。和歌山市楠見中の「子どもの生活支援ネットワークこ・はうす」は週1回、民家で小中学生に夕食を提供し、学生ボランティアが勉強を教える。事務局を運営する社会福祉士の馬場潔子さんは「子どもたちが『おかえり』と言ってもらえ、宿題したり、夕食の準備を手伝えるような安心できる居場所をつくっています」とほほえむ。
「こんばんはー」「いただきます!」。午後6時すぎ、肉じゃがにピーマンの炒め物、里芋の煮物、ご飯が並ぶ食卓を囲む子どもたちと学生ボランティア、スタッフたち。今日の出来事や食事の感想に花を咲かせる。
こ・はうすは今年1月に開所した。馬場さんや和歌山大学の谷口知美准教授、当事者らが委員会を立ち上げ運営している。経済的、精神的にギリギリの状態で子育てする家庭やひとり親家庭、親の長時間勤務により子どもだけで夕食を済ます子どもたちに、皆で食卓を囲む楽しさを伝える。現在は4世帯の小中学生6人が利用する。
利用は登録制で、1食300円。食後はトランプやゲーム、おしゃべりとなごやかな時間を過ごし、8時には帰宅する。時折、学生ボランティアが宿題など勉強を見てあげ、テスト前には中学生だけが別の日に集まり、大学生が講義をすることもある。和大大学院生の龍神美紅(みく)さんは「学校で話しにくいことを教えてくれるようになり、『同じ釜の飯を食う』という感じで打ち解けてきました」と振り返る。
子ども2人を通わせる母親は「いつもは『早く食べて、早く片付けて』とつい余裕をなくしてしまう。野菜たっぷりの手料理がいただけるのもありがたい。今では進んで行くようになりました」と目を細める。
拠点の一軒家は所有者から無償で借り、夕食に使う新鮮な野菜の一部は、近所の女性が分けてくれる。女性は「夫婦で作っており、以前は余らせてもったいないこともあった。子どもたちがおいしいと言って食べてくれ、野菜も喜んでいます」と協力を惜しまない。
支援が必要な家庭にもっと取り組みを知らせようと、10月から来年3月まで月1回、利用者以外の子が参加できる小中学生対象の体験会を始めた。味噌づくり、魚のさばき方、赤ちゃんとの接し方などを祖父母世代の食育指導士が教える。
馬場さんは「こ・はうすは無理せず、〝地域のおばちゃん〟ができる範囲でやっています。今後、他地域でも『これならやれそう』と支援の輪が広がってほしい」と願う。
子どもの貧困の要因には、母子家庭の増加や働く女性の非正規雇用の多さが挙げられる。和大教育学部の越野章史准教授は「草の根的な子どもの支援活動は大切。ただ、貧困の根底にある問題を解決しなければならず、これは本人の責任と言い切れるものではない。そのためにも世論を広げていくこと。かかわる大人の数は子どもにとって資源。子育てを私事化せず、昔のように社会で育てる流れが復活すれば」と話している。
写真=手作りの夕食を囲む食卓では笑いが絶えない
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サポート会員を募集中。年会費1口1000円。銀行振込(ゆうちょ銀行普通預金、店番/478、口座番号/10241571、名義/子どもの生活支援ネットワークこ・はうす)。事務局(073・452・7710、きのくに子どもNPO内)。詳細はフェイスブック。
※子どもの貧困率…国民生活基礎調査から算出した貧困線(2012年は122万円)に届かない世帯で暮らす18歳未満の割合。子どもの6人に1人が貧困状態にあるとされる。
(ニュース和歌山2015年11月14日号掲載)