国の名勝和歌の浦、和歌山県指定文化財の雑賀崎台場、水軒堤防。3つの文化財の保存活用に力を入れる市民グループ3団体が連携を深めている。和歌山市南端部の文化財を結び、ルート整備を進め、海岸線の魅力アップを図るのが目的で、今年5月には3文化財を巡るウォークを開催した。課題を行政へ働きかけるなど活発に動いており、11月29日(日)に開くシンポジウムでは官民一体の取り組みへの一歩としたい考えだ。

 呼びかけたのは雑賀崎のトンガの鼻自然クラブ。雑賀崎の岬にあり、江戸時代の石垣や土塁の構造を残す雑賀崎台場跡の保存に努める。地元の風習を生かした彼岸の「夕日を見る会」も季節行事として定着させた。

 「歴史遺産同士が点ではなく、線でつながることで面になり、魅力を大きくできると思った」と同クラブの松川靖副代表。和歌浦の玉津島神社を中心に名勝和歌の浦の発信を図る玉津島保存会、江戸時代の防潮・防波堤の石堤と土塁が残る水軒堤防一帯の歴史公園化をめざす水軒の浜に松を植える会に呼びかけた。玉津島保存会の渋谷高秀事務局長は「文化財は世代を超え残り、消えない。文化財でつながり、個別に活動するのとは違う視点、知恵を出したい」と応じた。
2015112101_heritage

 3団体が最初に取り組んだのは5月の歴史遺産ウォーク。3つの文化財を巡り、あまり知られていない高津子山から雑賀崎へ至る尾根沿いのルートを歩いた。約50人が参加し、好評を集めた。トンガの鼻の松川由喜子さんは「雑賀崎の渚が見える眺めのいい場所、古道のような所もある。海辺にもいい道があり、文化財をつなぐ大きなルートの中に小さなルートが幾つもある形が出せる。案内板が整備されれば充実すると思う」と語る。

 3団体は8月、各文化財の保全整備や活用計画への参加、PRの強化を和歌山市へ要望。共同では「和歌浦、田野、雑賀崎、水軒に案内板、道標を設置するなどルート整備と維持管理の体制づくり」を求めた。検討や協議対象にするとの回答だったが、この動きを後押しするハード面での計画がある。

 ひとつは県と和歌山市が整備するサイクリングロードで、水軒、雑賀崎、和歌浦へ至るルートを計画中だ。また、同市はルート途中の中央卸売市場を、「道の駅」併設の観光市場にする方針。今年度中には基本計画を策定する方向で、「和歌山下津港へのクルーズ客船の入港も考慮し、周辺一体を観光拠点に整備」とうたう。さらに同市は来年度、水軒堤防の公園化に向け、基本計画づくりに入る。いずれも人の流れを和歌山下津港方面から、水軒、雑賀崎、和歌浦へと導くきっかけになる。

 水軒の浜に松を植える会の奥津尚宏事務局長は「水軒堤防近辺の公園化は決まっているが、活用方法はこれから。ぜひ意見を聞いてほしい。民間で活動していると、ここにトイレ、拠点施設があれば…と気づくことが多いが、どうしても限界がある。行政と一緒にやらないと地域全体の動きにならない」と強調する。
2015112101_heritage2

 3団体主催の29日のシンポジウムはその一歩にしたい意向で、意見交換会には県や市の担当者も複数出席する。和歌山市の西川隆博観光課長は「住民が中心となり和歌山を自慢できる町にする努力は素晴らしい。和歌山の課題は、持続可能な観光の形を作ること。そのきっかけの一つになってほしい」と話している。
     ◇   ◇
 シンポジウム「つながる歴史遺産 和歌浦〜雑賀崎台場〜水軒堤防の保存と活用を考える」…29日(日)午後1時半〜3時半、和歌山市雑賀崎の双子島荘。文化財の保存と活用について県担当者の講演後、3団体のメンバーが活動を報告。最後に行政の担当者らと意見交換を行う。無料。渋谷さん(073・447・2660)。

写真上=「つながる歴史遺産」と題し開催された5月のウォーク
同下=意見交換する3団体のメンバー
(ニュース和歌山2015年11月21日号掲載)