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 森や里山、海辺など豊かな自然の中で子どもの自主性や感受性を育む「森のようちえん」が県内で広がりを見せている。北欧発の野外保育で、和歌山には和歌山市郊外の滝畑地区を拠点にする「滝畑めぐみと森のようちえん」など8ヵ所あり、昨年12月にはこれらを結ぶ「森のようちえんネットワーク和歌山」が立ち上がった。行政も「子育て世代の移住推進につながる」と支援を検討している。

 「栗のからがたくさん落ちてる!」「この長い枝は僕のホースだよ」。子どもたちは大きな葉や木の実、虫と次々に"遊び道具"を発見。あぜ道をすべり台代わりにして、転んでも自力で起き上がる。1月14日、滝畑めぐみと森のようちえんが開いた親子クラス。初めは尻込みしていた子も野山を自由に駆け回り、次第にキラキラした笑顔になった。静かな里山に元気な声が響いた。

  同ようちえんは、2歳の息子を育てる大阪府堺市の佐道大倫(ひろのり)さんと匡子(まさこ)さん夫妻が耕作放棄地を借り、昨年9月から毎月1回、土曜日に開く。園舎はなく、夏は浅瀬の川、秋は落ち葉積もる山、冬はたき火のぼる畑と、自然の中で子どもたちの好きなように過ごす。ルールは大人が「危ない、汚いからダメ」とできるだけ口出ししないことだ。

 学童保育に携わっていた大倫さんは、教員や保護者の指図で児童が動く教育に違和感を覚えていた。「ここは大人が子どもの可能性を信じて見守る場。大人は強要せず、子どもが自ら自然の中で感性を働かせ、何をしたいか決めることで、自分の価値観で考え、動ける子に成長する」。確かに、「集まって」「次はこれをしましょう」など大人の指図は聞こえない。3歳の息子と来た畠寛子さんは「『危ない』とつい声を出したくなるけれど、小さいうちに失敗を経験し、心身ともにたくましく育ってほしい」と願う。

 4月以降、開催回数を増やし、来春には平日毎日通える通園型の開設を目指す。大倫さんは「ここに通わせたいから和歌山市に住みたいと思ってもらえるような、地域の価値が高まる取り組みにしたい」と力を込める。

 野外での幼児保育の総称、森のようちえんは1950年代にデンマークで生まれた。日本では10年前から広がり、平日通う通年型として行う団体のほか、幼稚園がプログラムに取り入れたり、子育てサークルがイベントとして開いたりと様々。全国ネットワークが発足した2009年、活動登録する会員は68機関だったが、今年1月末で264機関と急増している。

 和歌山県内では、昨年から岩出や那智勝浦などでも誕生し、紀北筋で森のようちえんを開く地域活性化支援団体「いなか伝承社」が昨年12月、「森のようちえんネットワーク和歌山」を立ち上げた。PRのほか、勉強会を開き、主催者のレベルアップを図るのがねらい。田中寛人代表は「地元の人が土地を貸してくれたり、昔の遊びを教えてくれたりと世代を超え、地域を巻き込んだ活動になっている。幼いころの自然体験は郷土愛を育てることにつながり、新たな地域おこしになる」と期待する。

 和歌山県も注目し、県内2団体を昨年視察、他府県での活動事例も調査をしてきた。県自然環境室の阪口公章副室長は「情操教育としての面はもちろん、和歌山の強みである自然を生かした取り組みは、自然の中での子育てにあこがれる都心部の若い世代を呼び込む移住推進にもなる」とみている。

 滝畑めぐみと森のようちえん(takihata_megumi@yahoo.co.jp)。

 いなか伝承社(inakadss@gmail.com)。

写真=山に囲まれた滝畑の里山がようちえんの園舎代わりに

(ニュース和歌山より。2017年2月4日更新)