耳が聞こえないデザイナー 岩田直樹さん

 デジタル庁が9月に設置され、今年10月10日と11日に初めての「デジタルの日」を迎える。このロゴを製作したのは、紀の川市出身で、耳の聞こえないデザイナー、岩田直樹さん(25、写真)だ。「壁のない、だれに対しても優しいデジタルをイメージし、あえてすき間を設けた不完全な形にしている。この機会に決めつけや偏見をなくし、だれでも過ごしやすい社会になれば」と望んでいる。

 生まれつき両耳が聞こえない岩田さん。小学校で児童会長を務め、和歌山ろう学校で過ごした中高生時代はニュージーランドへ研修に行くなど、チャレンジ精神おう盛だ。自作の映像作品がローマ国際ろう映画祭で入賞した経験も持つ。

 絵やものづくりに関心が高く、大学ではデザインを専攻した。現在はデザイン会社に勤めるかたわら、個人デザイナーとして活躍する。「視覚情報のみで生きてきた僕だからこそ『分かりやすさ』に敏感。デザインの強みです」

 コミュニケーションが壁となり、客とのやりとりに苦労することも。一方、健聴者も聞こえない人とのかかわり方に悩んでいると知り、両者が交流する場「ろうちょ~会」の運営に携わる。

 今年5月、「2021デジタルの日」ロゴ製作の話が舞い込んだ。内閣官房の「デジタルの日検討委員会」が作成者の推薦をインターネットで受け付けたところ、漫画『ドラゴンボール』の作者、鳥山明さんや、『ワンピース』の作者、尾田栄一郎さんらを抑え、506票を獲得し1位に。「見間違いかと驚きました。デザイナー、聴覚障害者として大きなチャンスと思い引き受けました」

 ロゴは、どこまでもつながるネットワークと海や空をかけた青い3本の線で、パソコンやスマートフォンの四角い画面を表現。「デジタル化はあくまで手段。ふとした時に思い出してもらい、暮らしの中でデジタルにできるものを探し、チャレンジするきっかけに」

 これからも自分らしいデザインを作りたいと語る。「聞こえないだけで、夢や趣味はみんなと同じ多様です。健聴者には気にせずかかわってほしいし、ろう者には聞こえないことで未来の選択肢を減らさないでほしい」と願っている。

(ニュース和歌山/2021年10月9日更新)